天然石

鱗鉄鉱

鱗鉄鉱(りんてっこう):詳細・その他

鉱物としての基本情報

  • 化学組成:Fe3O4
  • 結晶系:等軸晶系
  • 結晶構造:スピネル型構造
  • 硬度:5.5~6.5 (モース硬度)
  • 比重:4.8~5.3
  • 劈開:なし
  • 断口:貝殻状~不平坦状
  • :黒色、銀白色
  • 条痕:黒色
  • 光沢:金属光沢
  • 透明度:不透明

特徴と性質

鱗鉄鉱は、その名の通り鉄を主成分とする酸化鉱物であり、四酸化三鉄(Fe3O4)の化学組成を持ちます。自然界においては、酸化鉄鉱物の中でも最も代表的なものの一つとして知られています。結晶系は等軸晶系に属し、その構造はスピネル型構造をとります。これは、マグネタイト(磁鉄鉱)と化学組成および結晶構造が同じであることを意味します。

硬度はモース硬度で5.5~6.5と、鉱物の中では比較的硬い部類に入ります。比重は4.8~5.3と、鉄を多く含むため重い鉱物です。劈開はほとんどなく、断口は貝殻状あるいは不平坦状を示します。

鱗鉄鉱の最も特徴的な性質の一つは、その色です。通常は黒色を呈しますが、酸化が進んだり、他の不純物が混入したりすると、銀白色や赤褐色を呈することもあります。条痕(鉱物を素焼きの板にこすりつけたときに付く粉の色)は黒色です。光沢は強い金属光沢を持ち、鉱物標本としては非常に見栄えの良いものが多いです。透明度はなく、常に不透明です。

磁性

鱗鉄鉱(マグネタイト)の最も顕著な性質は、その強い磁性です。これは、四酸化三鉄(Fe3O4)という化学組成において、鉄イオンが特定の配置をとることによって生じるフェリ磁性(強磁性の一種)に由来します。そのため、磁石に引きつけられる性質を持ち、時には永久磁石としても機能するほどの磁力を持つこともあります。この磁性は、鉱物学的な同定において重要な手がかりとなります。

産出と生成環境

鱗鉄鉱は、地球上に広く分布しており、様々な地質学的環境で生成されます。

火成岩

火成岩、特に塩基性火成岩や超塩基性火成岩の造岩鉱物として、斑れい岩やかんらん岩などに含まれています。マグマが冷却固化する過程で、鉄と酸素が結合して形成されます。

変成岩

広域変成作用や接触変成作用によって、片麻岩や角閃岩などの変成岩中にも産出します。既存の岩石中の鉄分が再結晶化して生成されると考えられています。

堆積岩

湖底や海底などの還元的環境下で、鉄イオンと酸素が反応して生成することもあります。特に縞状鉄鉱層(BIFs)の一部として、大規模な鉱床を形成している場合もあります。

熱水鉱床

火山活動に伴う熱水によって、熱水鉱床としても産出します。高温高圧の条件下で、鉄分を含む熱水が沈殿して形成されます。

地表での生成

酸化や水和した鉄鉱石の風化によっても生成されます。地表付近での酸化環境下では、赤鉄鉱(Fe2O3)へと変化しやすい性質も持っています。

用途と利用

鱗鉄鉱は、その特性から古くから様々な用途で利用されてきました。

鉄の原料

製鉄における最も重要な鉄鉱石の一つです。四酸化三鉄(Fe3O4)は、高純度の鉄を効率的に抽出するための原料となります。製鉄所では、高炉でコークスと共に還元され、銑鉄が作られます。

顔料

黒色顔料として、塗料、インク、化粧品などに利用されてきました。その安定した色調と安全性から、古くから重宝されてきました。

磁性材料

その強い磁性を利用して、磁気テープ、ハードディスクの記録媒体、磁石の原料としても利用されてきました。近年では、より高性能な磁性材料に取って代わられつつありますが、依然として一部の分野で利用されています。

その他の利用

* 研磨剤:硬度が高いため、金属の研磨などに利用されることがあります。
* 触媒:特定の化学反応において、触媒としての機能を持つことが研究されています。
* 生体応用:微細な鱗鉄鉱粒子は、MRI造影剤やがん治療におけるハイパーサーミア(温熱療法)への応用が研究されています。

関連鉱物と識別

鱗鉄鉱は、他の鉄鉱物と紛らわしい場合があるため、識別が重要です。

赤鉄鉱(せきてっこう)

* 化学組成:Fe2O3
* 特徴:赤褐色~黒色。条痕は赤褐色。鱗鉄鉱より硬度が高い(モース硬度5~6)。磁性は非常に弱いか、ほとんどない。

針鉄鉱(しんてっこう)

* 化学組成:FeO(OH)
* 特徴:針状~繊維状の結晶。黄褐色~赤褐色。条痕は黄褐色。鱗鉄鉱より硬度が高い(モース硬度2~5)。

黄鉄鉱(おうてっこう)

* 化学組成:FeS2
* 特徴:黄銅色。条痕は黒色。硬度が高い(モース硬度6~6.5)。硫黄を含むため、酸に反応して硫化水素ガスを発生することがある。鱗鉄鉱のような強い磁性はない。

磁鉄鉱(じてっこう)

* 化学組成:Fe3O4
* 特徴:鱗鉄鉱と化学組成、結晶構造、性質が同じであり、事実上同種鉱物として扱われることが多い。

識別方法

* 磁性:最も分かりやすい識別方法です。鱗鉄鉱(磁鉄鉱)は強く磁石に引きつけられますが、赤鉄鉱や針鉄鉱はほとんど引きつけられません。黄鉄鉱も磁性はほとんどありません。
* 条痕:素焼きの板にこすりつけたときの粉の色も重要な識別点です。鱗鉄鉱は黒色、赤鉄鉱は赤褐色、針鉄鉱は黄褐色です。
* 外観:結晶の形状も参考になります。鱗鉄鉱は八面体や菱面体などの結晶を示すことが多いですが、塊状で産出することもあります。

まとめ

鱗鉄鉱は、四酸化三鉄(Fe3O4)を主成分とする酸化鉄鉱物であり、等軸晶系に属します。その最大の特徴は強い磁性を持つことであり、黒色の金属光沢を呈します。火成岩、変成岩、堆積岩、熱水鉱床など、様々な地質学的環境で生成され、地球上に広く分布しています。

古くから鉄の原料として、そして黒色顔料や磁性材料としても利用されてきました。近年では、その磁性を活かした生体応用に関する研究も進められています。赤鉄鉱、針鉄鉱、黄鉄鉱といった他の鉄鉱物とは、磁性や条痕、結晶形状などの違いによって識別されます。鱗鉄鉱は、私たちの生活や産業に深く関わる、非常に重要な鉱物の一つと言えるでしょう。