天然石

鉄珪輝石

鉄珪輝石の詳細・その他

概要

鉄珪輝石(てつけいきせき、Ferrosilite)は、輝石グループに属するケイ酸塩鉱物の一種です。化学組成は FeSiO₃ で表され、鉄(Fe)とケイ素(Si)および酸素(O)から構成されています。鉄珪輝石は、岩石学や鉱物学において、地質学的な情報を示す重要な指標鉱物として位置づけられています。特に、超苦鉄質岩 や 苦鉄質岩 といった、マグネシウムや鉄を多く含む火成岩の構成鉱物としてしばしば見られます。

化学組成と構造

鉄珪輝石の化学組成は FeSiO₃ ですが、実際には純粋な鉄珪輝石として産出することは稀で、多くの場合、マグネシウムを含むエンスタタイト(MgSiO₃)との固溶体(鉄-マグネシウム固溶体)を形成しています。この固溶体系列は、エンスタタイト(MgSiO₃)から鉄珪輝石(FeSiO₃)へと連続的に変化し、その中間組成の鉱物はフォーリエライト((Mg,Fe)SiO₃)と呼ばれます。鉄珪輝石の化学式における鉄は、主に二価の鉄イオン(Fe²⁺)として存在しますが、酸化条件下では三価の鉄イオン(Fe³⁺)を含む場合もあります。これにより、化学組成や結晶構造にわずかな変動が生じることがあります。

輝石グループの鉱物は、一般的に単斜晶系または斜方晶系に属します。鉄珪輝石は、本来は斜方晶系に属するフェロシライト(FeSiO₃)と、単斜晶系に属するクリノフェロシライト(単斜晶系のFeSiO₃)の総称として用いられることがあります。しかし、現代の鉱物学では、斜方晶系のものをフェロシライト、単斜晶系のものをクリノフェロシライトと区別することが一般的です。本稿では、特に断りのない限り、鉄珪輝石を広義の意味で捉え、両者を含めて解説します。

輝石の結晶構造は、SiO₄四面体が鎖状に連なった「珪酸鎖」を基本骨格としています。この珪酸鎖が、金属イオン(この場合は主にFe²⁺やMg²⁺)によって架橋されることで、三次元的な構造が形成されます。鉄珪輝石の場合、これらの金属イオンがM1サイトやM2サイトと呼ばれる位置を占めます。

物理的・化学的性質

鉄珪輝石の結晶は、一般的に淡黄色から茶褐色、あるいは黒色を呈します。この色は、含まれる鉄イオンの量と価数、そして結晶構造中の鉄イオンの配置に影響されます。純粋な鉄珪輝石は無色透明に近いですが、鉄の含有量が増えるにつれて色が濃くなる傾向があります。

光沢

鉄珪輝石の光沢は、ガラス光沢を呈します。これは、鉱物の表面で光が反射される様子がガラスに似ていることを示します。

条痕

鉄珪輝石の条痕(鉱物を粉末にしたときの色)は、白色から淡黄色です。

硬度

モース硬度では、鉄珪輝石の硬度は5.5から6.5程度です。これは、ガラスを傷つけることができる硬さであり、ナイフの刃よりも硬いことを意味します。

劈開

鉄珪輝石は、輝石グループの鉱物に特徴的な、二方向に約87°と93°で交わる完全な劈開を持ちます。この劈開は、結晶構造における結合力の弱い部分に沿って割れる性質であり、観察される結晶の形状に影響を与えます。

断口

断口は不平坦状を示すことがあります。

比重

鉄珪輝石の比重は、約3.5から3.9程度です。これは、同体積の水を比較して、その鉱物がどれだけ重いかを示す値であり、鉄の含有量が増えるほど比重は大きくなる傾向があります。

融点

鉄珪輝石の融点は、約1200℃前後とされています。これは、マグマが冷却固結する際の温度条件と関連して重要です。

産状

鉄珪輝石は、主に火成岩の構成鉱物として産出します。特に、玄武岩、安山岩、閃長岩、輝石岩、かんらん岩、斑れい岩などの苦鉄質から超苦鉄質の火成岩中に見られます。これらの岩石は、地殻やマントルの深部で生成されるマグマが地表または地下で冷却固結してできます。

また、広域変成作用を受けた泥質岩や砂質岩、炭酸塩岩などにも、副成分鉱物として産出することがあります。変成岩中では、比較的高温・高圧の条件で生成されることが多いです。

代表的な産地としては、イタリアのモンテ・ソンマ、カナダのケベック州、アメリカのニューヨーク州、そして日本の瀬戸内海地域などが挙げられます。

識別方法

鉄珪輝石の識別は、その色、光沢、劈開、比重などの物理的性質を総合的に判断して行われます。特に、輝石グループに特徴的な二方向の劈開は、識別において重要な手がかりとなります。また、岩石中の共生鉱物(斜長石、かんらん石、黒雲母など)との関係も、識別を助けます。

顕微鏡下での薄片観察では、その多色性、消光角、変色などが観察され、より詳細な同定が可能となります。

鉱物学的な意義と応用

鉄珪輝石は、その産状や共生鉱物から、母岩の生成温度、圧力、酸素分圧などの地質学的条件を推定するための指標鉱物として非常に重要です。特に、鉄-マグネシウム固溶体系列における鉄珪輝石の存在比率は、マグマの組成や結晶分化の過程を理解する上で役立ちます。

また、鉄珪輝石は、鉱物学的な研究だけでなく、地殻変動やマントルダイナミクスといった地球科学の分野においても、岩石の起源や進化を解明するための手がかりを提供します。

産業的な直接の用途は限定的ですが、鉄を含む鉱物としての側面から、将来的には資源としての利用や、新しい材料開発の基礎研究に繋がる可能性も考えられます。

まとめ

鉄珪輝石は、FeSiO₃を基本組成とする輝石グループの鉱物であり、特に苦鉄質・超苦鉄質火成岩中に多く見られます。エンスタタイトとの固溶体として産出することが一般的で、その色、硬度、劈開などの物理的性質は、地質学的な研究において重要な情報を提供します。生成条件の指標鉱物としての役割は大きく、地球科学の様々な分野でその存在が活用されています。