天然石

水苦土石

水苦土石(みずくどせき)の詳細・その他

概要

水苦土石(すいくどせき、英語: Huntite)は、炭酸塩鉱物の一種であり、化学組成は CaMg3(CO3)4 で表されます。マグネシウムとカルシウム、そして炭酸イオンから構成される複雑な構造を持っています。

この鉱物は、1884年にイタリアのウンブリア州に位置するモンテ・マルドゥーロ(Monte Marduaro)で発見され、その発見者であるイタリアの鉱物学者、フィリッポ・ディ・カッポ・グエルリオーニ(Filippo di Cappo Guarlioni)の妻、マリア・マルトゥッツィ・グエルリオーニ(Maria Martuzzi Guarlioni)にちなんで、Huntite と命名されました。当初はイタリア語で「グエルリオーニ石」とも呼ばれていましたが、国際的にHuntiteの名称が一般的となりました。

水苦土石は、その独特な組成と構造から、鉱物学的に興味深い存在です。特に、マグネシウムとカルシウムが特定の比率で結合している点が特徴的であり、これは炭酸塩鉱物の中でも比較的珍しい組み合わせと言えます。

物理的・化学的性質

水苦土石の物理的・化学的性質は以下の通りです。

結晶系と形態

水苦土石は三方晶系に属し、通常は針状結晶粒状集合体腎臓状集合体として産出します。単結晶は稀で、微細な針状結晶が束になっていたり、放射状に広がっていたりする様子が観察されます。

色と光沢

水苦土石は、無色白色淡黄色淡灰色など、様々な色合いを示します。これは、含まれる不純物によって変化します。光沢はガラス光沢から絹糸光沢まで様々です。

硬度と密度

モース硬度は1〜2と非常に柔らかく、爪でも傷をつけることが可能です。比重は2.7前後であり、比較的軽い鉱物と言えます。

劈開と断口

完全な{0112}方向の劈開を持ちます。断口は貝殻状を示すことがあります。

条痕

条痕(粉末にしたときの色)は白色です。

溶解性

水苦土石は、希塩酸に反応して泡を発生させ、溶解します。この性質は、他の炭酸塩鉱物との鑑別に役立ちます。

熱的性質

加熱すると、まず水を放出し、その後二酸化炭素を放出して酸化マグネシウムと酸化カルシウムの混合物になります。

産出状況と共生鉱物

水苦土石は、特定の地質環境下で形成されます。その産出状況と共生鉱物について説明します。

生成環境

水苦土石は、主に変成作用を受けた石灰岩やドロマイト、または hidrotermal 鉱脈中に産出します。特に、マグネシウムに富む熱水溶液が、石灰岩などの炭酸塩岩と反応することによって生成されると考えられています。また、蛇紋岩化作用を受けた橄欖岩や輝石岩の周囲でも見られることがあります。

産出場所

世界各地で発見されており、代表的な産地としては以下のものが挙げられます。

  • イタリア: 発見地であるモンテ・マルドゥーロをはじめ、ウンブリア州
  • アメリカ合衆国: カリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州
  • トルコ: ビンギョル県
  • カナダ: オンタリオ州
  • オーストラリア: 西オーストラリア州

共生鉱物

水苦土石は、しばしば他の炭酸塩鉱物やケイ酸塩鉱物と共生して産出します。代表的な共生鉱物としては、以下のものが挙げられます。

  • ドロマイト (Dolomite): MgCa(CO3)2
  • カルサイト (Calcite): CaCO3
  • マグネサイト (Magnesite): MgCO3
  • タルク (Talc): Mg3Si4O10(OH)2
  • 蛇紋石 (Serpentine): Mg3Si2O5(OH)4
  • 方解石 (Aragonite): CaCO3(カルサイトの同質異像)

これらの共生鉱物との関係は、水苦土石の生成メカニズムを理解する上で重要な手がかりとなります。

用途と重要性

水苦土石は、その組成と性質から、いくつかの用途や学術的な重要性を持っています。

工業的用途

水苦土石は、そのマグネシウムとカルシウムの含有率から、耐火材セメントの原料としての可能性が研究されています。特に、高熱に耐える性質を持つため、工業炉の内張りなどに利用されることが期待されています。また、酸化防止剤難燃剤としての添加剤としての応用も検討されています。

学術的・科学的意義

水苦土石は、その独特な結晶構造と組成から、鉱物学における研究対象として重要です。特に、マグネシウムとカルシウムの固溶体形成や、炭酸塩鉱物の変成作用における挙動などを理解するためのモデル鉱物として利用されることがあります。また、地球化学的な研究においても、その生成条件や地球内部での振る舞いなどが注目されています。

宝飾品としての利用

水苦土石は、その硬度の低さから、宝飾品として加工されることは稀です。しかし、その独特な色合いや光沢を持つものは、コレクターズアイテムとして収集されることがあります。

まとめ

水苦土石(Huntite)は、化学組成 CaMg3(CO3)4 を持つ炭酸塩鉱物であり、1884年にイタリアで発見されました。三方晶系に属し、針状結晶や粒状集合体として産出します。硬度は低く、希塩酸に反応して溶解するという性質を持ちます。変成作用を受けた石灰岩や hidrotermal 鉱脈中に、ドロマイト、カルサイト、マグネサイトなどと共生して産出します。工業的には耐火材やセメント原料、難燃剤としての応用が研究されており、学術的にもその構造や生成メカニズムが注目されています。宝飾品としての利用は少ないものの、そのユニークな存在感からコレクターに愛されています。