天然石

斜方輝石

斜方輝石:詳細・その他

鉱物学における位置づけと定義

斜方輝石(しゃほうきせき、enstatite)は、輝石(きせき、pyroxene)グループに属する鉱物です。輝石グループは、ケイ酸塩鉱物の中でも特に重要なグループであり、地殻やマントルを構成する主要な造岩鉱物です。斜方輝石は、その結晶構造に特徴があり、 3つの結晶軸が互いに直交する斜方晶系に属します。

化学組成としては、マグネシウムを主成分とするケイ酸塩鉱物であり、一般式は (Mg, Fe)2Si2O6 で表されます。この式中の Fe は鉄を示しており、マグネシウムと鉄の比率によって斜方輝石のシリーズが形成されます。マグネシウムに富む端成分をエンスタタイト(Mg2Si2O6)、鉄に富む端成分をフェロシライト(Fe2Si2O6)と呼び、これらの固溶体(こようたい)として存在します。エンスタタイトとフェロシライトの間の組成を持つものは、ハイパーシン((Mg, Fe)2Si2O6)と呼ばれます。

物理的・化学的性質

結晶構造

斜方輝石の結晶構造は、輝石グループに共通する単斜鎖構造を基本としています。ケイ素原子(Si)は酸素原子(O)に囲まれてSiO4四面体を形成し、これらの四面体が酸素原子を共有してSiO3の単鎖を形成します。この単鎖が、M1サイトとM2サイトと呼ばれる金属イオン(主にMgやFe)と結合することで、輝石の骨格が構築されます。

斜方輝石の場合、M1サイトとM2サイトは、化学的に等価ではなく、それぞれのサイトに結合する金属イオンの配置によって結晶構造が決まります。この非対称性が、単斜輝石(例:透輝石)との構造的な違いとなり、斜方晶系に分類される所以です。

外観と色

斜方輝石は、一般的に無色から淡黄色、淡緑色、茶色、黒色まで、様々な色調を示します。この色の変化は、主に鉄の含有量やその価数(Fe2+かFe3+か)によって決まります。鉄の含有量が多いほど、色が濃くなる傾向があります。エンスタタイトに純粋なものは無色透明ですが、鉄が混入すると淡黄色や淡緑色になり、さらに鉄が増えると暗褐色や黒色になります。

結晶の形状は、柱状や短冊状を呈することが多く、その結晶面には条痕(じょうこん)と呼ばれる平行な筋が見られることがあります。これは、輝石グループに共通する特徴の一つです。

硬度と劈開

モース硬度は5.5から6.5程度であり、比較的硬い鉱物です。ガラスを傷つけることができます。

劈開(へきかい)は、結晶が割れる際の規則的な平面であり、斜方輝石は{110}面に沿って約86度と約94度の角度で交わる2方向に完全な劈開を示します。この特徴的な劈開角は、斜方輝石を同定する上で重要な手がかりとなります。

光学的性質

斜方輝石は、複屈折を示す鉱物です。屈折率は、主成分や鉄の含有量によって変動します。また、消光角(結晶軸と偏光方向とのなす角度)も、単斜輝石とは異なる特徴を持ちます。

産出状況と地質学的意義

火山岩、深成岩、変成岩

斜方輝石は、火成岩(かせいがん)や変成岩(へんせいがん)の主要な造岩鉱物として広く産出します。特に、苦鉄質(くてもしつ)あるいは超苦鉄質(ちょうくてもしつ)の火成岩、例えば玄武岩(げんぶがん)、粗面岩(そめんがん)、かんらん岩(かんらんがん)などに多く含まれます。

また、広域変成作用(こういきへんせいさよう)を受けた泥質(でいしつ)あるいは塩基性(えんきせい)の岩石、例えば角閃岩(かくせんがん)やグラニュライト(granulite)などにも産出します。これらの岩石の熱的・圧力的条件を知る上で、斜方輝石の存在やその組成は重要な指標となります。

深成岩では、斑れい岩(はんれいがん)などにも見られます。

地球内部の環境

斜方輝石は、地球のマントルや地殻下部といった高温・高圧の環境で安定して生成する鉱物です。そのため、地球内部の物質循環やプレートテクトニクスの理解において、その産状や共生鉱物(一緒に産出する鉱物)の関係は貴重な情報源となります。

特に、かんらん石(かんらんせき)と斜方輝石の共存は、マントル岩石の重要な特徴です。また、変成岩中の斜方輝石は、その変成作用の温度・圧力条件を推定するための温度計・圧力計としても利用されます。

識別と鑑別

斜方輝石を他の鉱物と区別するには、いくつかの特徴を総合的に判断する必要があります。

  • 結晶系:斜方晶系に属すること。
  • 化学組成:マグネシウムと鉄を主成分とするケイ酸塩であること。
  • 劈開:{110}面に沿って約86度と94度で交わる2方向の完全な劈開。
  • 条痕:結晶面に平行な条痕。
  • 色:無色から淡緑色、褐色、黒色など。鉄の量に依存。
  • 硬度:5.5-6.5。

特に、劈開の角度は単斜輝石(約56度と124度)と明確に区別される重要な特徴です。また、条痕の有無や色調も鑑別に役立ちます。

その他:鉱物としての魅力と応用

鉱物コレクターの間での人気

斜方輝石は、その多様な色調や結晶形から、鉱物コレクターの間でも人気があります。特に、鮮やかな緑色や透明度の高いものは珍重されます。また、他の鉱物との共生関係が美しい標本も多く存在します。

gemstoneとしての側面

一部の斜方輝石は、宝石としても利用されることがあります。特に、鉄の含有量が少なく、透明度が高いものは、ブラッドストーン(bloodstone)などとしてカットされ、装飾品に用いられることがあります。ただし、一般的に宝石として広く知られている鉱物ではありません。

鉱床学的な意義

斜方輝石は、一部の鉱床(こうしょう)の生成環境を示す指標となることがあります。例えば、特定の熱水鉱床(ねっすいこうしょう)やペグマタイト(pegmatite)などにおいて、その存在が鉱床の成因や発達段階を示唆することがあります。

まとめ

斜方輝石は、地殻やマントルを構成する重要な造岩鉱物であり、その結晶構造、物理的・化学的性質、そして産出状況から、地球の内部環境や地質作用を理解する上で不可欠な存在です。マグネシウムと鉄の比率によって組成が変化し、それに伴って色調も多様に変化します。特徴的な劈開や条痕は、識別において重要な手がかりとなります。鉱物コレクターやgemstoneとしての側面も持ち合わせており、その学術的・実用的価値は多岐にわたります。