天然石

大阪石

大阪石(おおさかせき)

概要

大阪石(おおさかせき、Osakaite)は、2017年に報告された比較的新しい鉱物です。その名前の通り、日本の大阪府で発見されたことが由来となっています。この鉱物は、六方晶系の結晶構造を持ち、化学組成は Ca3(SiO4)2(OH) とされています。構造的には、ハイドロサルフォアルユマイト (Hydrosodalite)のグループに属する鉱物と関連性が指摘されています。

発見と命名

大阪石は、大阪府の富田林市に位置する金剛山の変成岩地帯から産出しました。具体的には、接触変成作用を受けた石灰岩のキンバリー石(Kimberlite)の捕獲岩(xenolith)として発見されたものです。この発見は、日本の鉱物学界において注目を集めました。

命名については、発見地である大阪府にちなんで「大阪石(Osakaite)」と名付けられました。この命名は、国際鉱物学連合(IMA)の承認を経て正式に決定されました。

産状と共生鉱物

大阪石の産状は、金剛山の変成岩地帯、特にキンバリー石の捕獲岩という、非常に特殊な環境下であることが特徴です。キンバリー石は、地球深部からマントル由来のかんらん岩などを地表に運ぶ火山活動によって形成される岩石であり、その中に含まれる捕獲岩は、本来存在しないはずの深部や地殻の物質を一時的に地表に運ぶ役割を果たします。

大阪石が生成された環境は、キンバリー石の上昇に伴う急激な圧力・温度変化、あるいはキンバリー石自体の熱や流体との反応によって、石灰岩が変成作用を受けた結果と考えられています。

共生鉱物としては、フォストライト(Fosterite; オリビンの一種)、ディポサイド(Diopside; 輝石の一種)、カミングトン輝石(Cummingtonite; 角閃石の一種)、スピネル(Spinel)、石榴石(Garnet)、方解石(Calcite)などが報告されています。これらの鉱物は、高温・高圧下での変成作用によって生成されるものばかりであり、大阪石が生成された環境の特殊性を物語っています。

鉱物学的特徴

化学組成

大阪石の化学組成は Ca3(SiO4)2(OH) とされています。これは、カルシウム(Ca)、ケイ素(Si)、酸素(O)、水素(H)から構成されるケイ酸塩鉱物であることを示しています。SiO4(ケイ酸イオン)とOH(水酸基イオン)が含まれており、構造中に水(OH基の形)を含む含水鉱物であると言えます。

この組成は、ハイドロサルフォアルユマイト (Na8(AlSiO4)6Cl2)の構造と関連付けられており、ハイドロサルフォアルユマイト の構造中のナトリウム(Na)がカルシウム(Ca)に、アルミニウム(Al)がケイ素(Si)に、塩素(Cl)が水酸基(OH)に、そしてケイ素(Si)がケイ素(Si)に置換したような関係にあると理解されています。これは、構造類似性を示す重要な特徴です。

結晶構造

大阪石は六方晶系に属します。結晶学的な分類では、P63mc の空間群を持つとされています。

その構造は、サルフォアルユマイト 構造に類似しており、カゴ状構造 を形成していると考えられています。このカゴ状構造 の中に、カルシウムイオン や水酸基イオン が配置されていると推測されます。

物理的性質

大阪石は、白色から無色の結晶として産出します。条痕は白色です。

モース硬度 は、報告によれば5~6 程度とされています。これは、石英(モース硬度7)よりは柔らかく、リン酸塩鉱物のアパタイト(モース硬度5)と同程度かやや硬い程度です。

比重 は、約2.9~3.0 程度とされています。これは、ダイヤモンド(比重約3.52)や石英(比重約2.65)と比較すると、やや重い部類に入ります。

劈開 は不明瞭 またはなし とされています。

光沢 は、ガラス光沢 を示します。

紫外線を当てた際の蛍光 に関する報告は、現時点ではほとんどありません。これは、大阪石の微量元素 の組成や構造に起因すると考えられます。

研究の意義と今後の展望

大阪石の発見は、日本の鉱物相を豊かにするだけでなく、地球科学におけるいくつかの重要な側面を示唆しています。

第一に、キンバリー石 の捕獲岩という特殊な環境下で、これまで知られていなかった鉱物が生成される可能性を示しました。これは、深部 から地表に運ばれてくる岩石 や鉱物 の研究が、地球内部の物質循環 や変成作用 を理解する上でいかに重要であるかを示しています。

第二に、大阪石の化学組成と結晶構造は、ハイドロサルフォアルユマイト グループの鉱物との構造類似性 を示しており、鉱物学 における構造と組成 の関係性を探る上で貴重な資料となります。特に、サルフォアルユマイト 構造が、ケイ酸塩 を含む様々な組成の鉱物で安定して存在しうることを示唆しています。

第三に、大阪石の産出地である金剛山 は、地質学的に関心 の高い地域であり、今後のさらなる地質調査 や鉱物学的研究 によって、この地域から新たな鉱物が発見される可能性も秘めています。

今後の展望としては、大阪石の微量元素 の詳細な分析、同位体 比の測定による生成環境 の推定、そして実験鉱物学 的なアプローチによる合成 や安定性 の研究などが期待されます。

まとめ

大阪石は、日本の大阪府金剛山 で発見された、六方晶系 のケイ酸塩鉱物 です。その化学組成は Ca3(SiO4)2(OH) であり、ハイドロサルフォアルユマイト グループの鉱物と構造的な類似性を示します。

この鉱物は、キンバリー石 の捕獲岩 という特殊 な産状 で、高温・高圧 下の変成作用 を受けて生成されたと考えられています。共生鉱物としては、フォストライト、ディポサイド などが知られています。

大阪石の発見は、深部 からの物質 の移動と変成作用 の研究、そして鉱物学 における構造と組成 の関係性を理解する上で、重要 な貢献 をしています。今後のさらなる研究によって、その科学的 な意義 が深まる ことが期待されます。