天然石

オンファス輝石

オンファス輝石:詳細とその他

概要

オンファス輝石(Omphacite)は、輝石グループに属する鉱物であり、特にカルシウムとナトリウムを主成分とする輝石(Ca,Na)(Mg,Fe2+,Al)Si2O6という一般式で表されます。その名前は、ギリシャ語の「omphax」(未熟なブドウ)に由来しており、これはオンファス輝石がしばしば緑色を呈すること、そしてしばしば不透明であることが、未熟なブドウのような外観から連想されたためです。オンファス輝石は、高温高圧という特殊な地質条件下で形成される鉱物として知られており、特に変成岩、とりわけエクロジャイトやブルージャケットの主要構成鉱物の一つです。その存在は、地殻深部やマントルの岩石が地表に持ち上げられた証拠となり、プレートテクトニクスの研究において非常に重要な情報を提供します。

化学組成と構造

オンファス輝石の化学組成は、複雑な固溶系列を形成します。主要な成分としては、カルシウム(Ca)、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe2+)、アルミニウム(Al)、そしてケイ素(Si)が挙げられます。特に、アルミニウム(Al)の存在はオンファス輝石の重要な特徴であり、これは一般輝石(ディオプサイド・ヘデン輝石)や角閃石の構造とは異なる、オンファス輝石特有の構造を形成します。

オンファス輝石の基本構造は、輝石型構造であり、これはケイ素-酸素四面体(SiO4)が鎖状に連なった構造です。この鎖状構造は、M1サイト(Mg, Fe2+, Alなど)とM2サイト(Ca, Naなど)と呼ばれるカチオンサイトによって支えられています。オンファス輝石の場合、M2サイトにはCaとNaが、M1サイトにはMg、Fe2+、そしてAlが入り込みます。特に、AlがSiのサイト(Tサイト)やM1サイトに置換することで、オンファス輝石の特性が発現します。

オンファス輝石は、エンドリダイト(Mg-Al-Si系列)とアウジテ(Ca-Fe2+-Si系列)という、2つの端成分の中間的な組成を持つことが多いです。この固溶系列は、高温高圧という条件で安定であり、変成作用の進行とともに組成が変化することもあります。

物理的・化学的性質

オンファス輝石の色は、通常、緑色を呈しますが、その色合いは不透明な緑色から透明感のある緑色まで幅広く、鉄やクロムなどの微量元素の含有量によって変化します。また、黒色や紫がかった色を示すこともあります。

光沢はガラス光沢から金属光沢に近いものまで見られます。

条痕(粉末にした際の色のこと)は、通常、白色から淡緑色です。

硬度は、モース硬度で5.5~6.5程度であり、比較的硬い鉱物です。

比重は、3.2~3.5程度と、その組成によって変動します。

劈開は、輝石グループの鉱物に共通する2方向に約90度で交わる完全な劈開を示します。これにより、オンファス輝石は長石のように特徴的な断口を持つことがあります。

融点は比較的高く、1000℃を超える温度で融解します。

耐酸性は、一般的な鉱物と比較して比較的安定していますが、強酸には分解される可能性があります。

生成環境と産状

オンファス輝石は、高温高圧という超高圧変成作用または高圧変成作用の条件下で形成される鉱物です。その代表的な産状としては、以下のものが挙げられます。

エクロジャイト(Eclogite)

エクロジャイトは、オンファス輝石と紅榴石(パイロープ)を主成分とする高温高圧変成岩です。オンファス輝石は、エクロジャイトの緑色の主要な構成鉱物であり、この岩石の特性を決定づける重要な役割を果たしています。エクロジャイトは、沈み込み帯において、海洋地殻がマントル深部へと引きずり込まれる際に形成されると考えられています。

ブルージャケット(Blueschist)

ブルージャケットもまた、オンファス輝石を主要鉱物とする高圧低温変成岩です。ブルージャケットでは、オンファス輝石は青色を呈することが多く、この岩石の名称の由来ともなっています。ブルージャケットも、プレートの衝突や沈み込みに伴って形成されます。

その他の変成岩

オンファス輝石は、エクロジャイトやブルージャケット以外にも、グラニュライトや角閃岩などの一部の変成岩にも含まれることがあります。これらの岩石も、地殻深部やマントルでの変成作用を受けて形成されたものです。

オンファス輝石を産出する地域としては、アルプス山脈、カシミール地方、日本(特に領家帯や三波川帯)、カナダ、アメリカなど、世界各地のプレート収束境界付近で見られます。

鉱物学的・地質学的意義

オンファス輝石は、その特異な形成条件と化学組成から、地質学的に非常に重要な鉱物とされています。

プレートテクトニクスの研究

オンファス輝石を含むエクロジャイトやブルージャケットは、地殻深部やマントルで生成された岩石が、プレートの沈み込みによって地表に引き上げられた証拠として扱われます。これらの岩石の産出場所や変成条件を分析することで、過去のプレート運動や沈み込み帯の構造を理解するための貴重な手がかりとなります。

地球内部の理解

オンファス輝石が安定して存在できる高温高圧条件は、地球内部の物質科学や物性物理学の研究においても重要です。オンファス輝石の結晶構造や物性を実験的に調べることで、地球内部のダイナミクスや岩石の挙動をシミュレーションする上での基礎データとなります。

鉱物学的な興味

オンファス輝石の複雑な化学組成と固溶系列は、鉱物学的な興味を引く対象です。アルミニウムがケイ素サイトやカチオンサイトに置換するメカニズムや、ナトリウムとカルシウムのサイト占有の関係などは、鉱物結晶学の観点から詳細な研究が進められています。

その他・興味深い事実

* オンファス輝石の名前の由来である「未熟なブドウ」は、その緑色と不透明さに由来しています。
* オンファス輝石は、宝石としての利用は稀ですが、コレクターや鉱物愛好家の間では、その産状や特徴的な色合いから人気があります。
* オンファス輝石の結晶は、双晶を形成することがあり、これが観察されることもあります。
* オンファス輝石の微量元素の分析は、その岩石の起源や変成過程を特定する上で重要な役割を果たします。

まとめ

オンファス輝石は、高温高圧という特殊な地質環境で形成される変成岩の主要鉱物です。その複雑な化学組成と輝石型構造は、プレートテクトニクスの研究において地球内部のダイナミクスを理解するための貴重な情報源となります。エクロジャイトやブルージャケットといった特徴的な岩石の構成要素として、地球の歴史と内部構造の解明に貢献する、科学的に非常に意義深い鉱物と言えます。