天然石

緑鉛鉱

緑鉛鉱(りょくえんこう)の詳細・その他

鉱物としての概要

緑鉛鉱(みどりなまりこう、英: pyromorphite)は、鉛のリン酸塩鉱物であり、化学組成は Pb5(PO4)3Cl です。

この鉱物は、鉛鉱床の酸化帯で二次的に生成されます。しばしば、白鉛鉱(セレンサイト)やリン灰石(アパタイト)などの他の鉛鉱物やリン酸塩鉱物と共生します。その名称は、ギリシャ語の「炎」を意味する “pyr” と「形」を意味する “morphe” に由来しており、これは加熱すると融解して火成岩のような外観になる性質にちなんでいます。

結晶系は六方晶系に属し、典型的な結晶形は柱状、針状、または双晶を形成します。また、粒状や塊状で産出することもあります。結晶はしばしば透明から半透明であり、光沢は金剛光沢から樹脂光沢を示します。硬度はモース硬度で3.5~4程度と比較的柔らかいです。

産出と生成条件

緑鉛鉱は、主に鉛を主成分とする鉱床の酸化帯、すなわち地表付近で風化・酸化作用を受けた部分で生成されます。元の鉛鉱物(例:方鉛鉱 PbS)が水や酸素、二酸化炭素などと反応し、リン酸成分(しばしば周囲の岩石や鉱物から供給される)と結合することで形成されます。

生成には、鉛イオン(Pb2+)、リン酸イオン(PO43-)、そして塩素イオン(Cl)の存在が不可欠です。これらのイオンが適切な濃度で水溶液中に存在し、沈殿することで緑鉛鉱の結晶が成長します。しばしば、リン酸塩鉱物であるアパタイトグループの鉱物や、他の鉛の塩素化物・臭化物・フッ化物(例:白鉛鉱)と共生関係にあります。

世界各地の鉛鉱床跡地で見られますが、特に良質な結晶や美しい色合いのものは、ドイツ、イギリス、フランス、アメリカ、オーストラリア、メキシコ、中国などから産出しています。

色と外観

緑鉛鉱の最も顕著な特徴はその色合いにあります。一般的に「緑」鉛鉱と呼ばれるように、鮮やかな緑色を呈することが多いですが、これは不純物として含まれる銅イオン(Cu2+)や、しばしば共生する他の鉱物の影響によるものと考えられています。

しかし、緑色以外にも、黄緑色、黄色、オレンジ色、茶色、そして稀に無色や青色などの多様な色合いを示すことがあります。この色の多様性は、産出場所や共生鉱物、微量元素の含有量によって変化します。結晶はしばしば細長い柱状や針状を呈し、集合してクラスターを形成することがあります。これらの結晶が光を反射することで、独特の輝きを放ちます。

物理的・化学的性質

緑鉛鉱は、六方晶系に属し、その結晶構造はアパタイトグループの鉱物と類似しています。化学組成は Pb5(PO4)3Cl ですが、鉛の一部がカルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)などに、リン酸の一部がヒ酸(AsO4)などに置換されることがあります。これらの置換は、鉱物の色や物性に影響を与えます。

  • 化学組成: Pb5(PO4)3Cl
  • 結晶系: 六方晶系
  • 色: 緑、黄緑、黄、オレンジ、茶、無色、青など
  • 光沢: 金剛光沢~樹脂光沢
  • 条痕: 白色~淡黄色
  • 硬度(モース硬度): 3.5~4
  • 比重: 6.6~7.0
  • 劈開: ほとんどなし
  • 断口: 不平坦状~貝殻状
  • 融点: 加熱により融解し、火成岩様になる

加熱すると、まず融解し、その後脱水・分解して、火成岩のような多孔質の塊になります。この性質が、そのギリシャ語名の由来ともなっています。水にはほとんど溶けませんが、強酸にはわずかに溶解します。

利用と鉱物標本としての価値

緑鉛鉱は、その美しい色合いと結晶形から、鉱物標本として非常に人気があります。世界中のコレクターや博物館で愛蔵されています。特に、緑色の鮮やかな結晶や、特徴的な形状をしたものは価値が高いとされています。

かつては鉛の鉱石として採掘されることもありましたが、現在ではその主な価値は鉱物標本としてのコレクターズアイテムとしての役割にあります。鉱物愛好家にとっては、その多様な色、結晶形、そして世界各地で発見される産状の違いを楽しむことができる魅力的な鉱物の一つです。

また、緑鉛鉱は、鉱床の形成過程や地質環境を理解するための手がかりとしても重要です。どのような条件下で生成され、どのような鉱物と共生するのかを調べることで、その鉱床の歴史や特性を推測することができます。

鉱物標本としての注意点

緑鉛鉱は鉛を含有するため、取り扱いには一定の注意が必要です。特に、粉末状になったものを吸入したり、誤って摂取したりしないように注意する必要があります。また、酸に触れると溶解する可能性があるため、酸性の薬品から遠ざけるように保管することが望ましいです。

長期保存のためには、直射日光や高温多湿を避け、乾燥した場所で保管することが推奨されます。また、他の鉱物と擦れ合わないように、個別に保管することが望ましいでしょう。

まとめ

緑鉛鉱は、鉛のリン酸塩鉱物であり、鉛鉱床の酸化帯で二次的に生成される美しい鉱物です。その名前の由来となった「加熱すると火成岩のようになる」性質や、緑色をはじめとする多様な色合い、そして特徴的な結晶形がコレクターを魅了します。鉱物標本としての価値はもちろんのこと、地質学的な観点からも興味深い存在です。取り扱いには鉛を含有することへの留意が必要ですが、その魅力は鉱物愛好家にとって尽きることのないものです。