天然石

褐鉛鉱

鉱物:褐鉛鉱(かつえんこう)の詳細・その他

褐鉛鉱(かつえんこう、wulfenite)は、鮮やかなオレンジ色から赤褐色、黄色、緑色など、多彩な色合いを持つ美しい鉱物です。その特徴的な色と、しばしば板状または角板状の結晶形から、コレクターに非常に人気があります。本稿では、褐鉛鉱の鉱物学的な特徴、産状、用途、そしてその他の興味深い側面について、詳細に解説します。

鉱物学的特徴

化学組成と結晶構造

褐鉛鉱の化学組成は PbMoO4(モリブデン酸鉛)です。鉛(Pb)とモリブデン(Mo)を主成分とするモリブデン酸塩鉱物であり、モリブデン鉱物としては比較的珍しい存在です。結晶系は正方晶系(tetragonal)に属し、一般的に薄い板状、角板状、あるいはプリズム状の結晶として産出します。特徴的なのは、その結晶面がしばしば光沢に富み、透明から半透明であることです。硬度はモース硬度で3~3.5程度と比較的軟らかく、劈開は不明瞭です。

物理的・化学的性質

褐鉛鉱の密度は5.9~6.5g/cm3と高く、これは主成分である鉛の原子量によるものです。比重もこの値から導かれます。融点は比較的高く、約1000℃で分解します。酸には溶けやすい性質を持ち、特に硝酸には容易に溶解します。この性質は、分析や処理の際に考慮されることがあります。

色彩

褐鉛鉱の最も魅力的な特徴の一つはその色彩です。一般的にオレンジ色、赤褐色、黄色などが代表的ですが、不純物の種類や量によって、緑色、褐色、さらには無色透明の標本も存在します。この鮮やかな色彩は、微量の金属元素(鉄、クロム、バナジウムなど)の混入によるものと考えられています。特に、鮮やかなオレンジ色のものは「バリアイト」と呼ばれることもありますが、これは別鉱物ではなく、色彩変異として扱われます。

産状と生成環境

二次鉱物としての生成

褐鉛鉱は、主にの硫化鉱物(例:方鉛鉱 PbS)やモリブデンの硫化鉱物(例:輝水鉛鉱 MoS2)が、酸化変質作用を受けた二次鉱物として生成されます。すなわち、既存の鉱物が地表付近の風化・酸化帯において、水などの影響を受けて化学変化した結果として形成されるのです。

生成環境としては、熱水鉱床堆積岩中の鉱脈などが挙げられます。特に、鉛やモリブデンを豊富に含む鉱床の酸化帯でよく見られます。共生鉱物としては、方鉛鉱、菱亜鉛鉱(ZnCO3)、黄鉛鉱(PbCrO4)、水鉛鉱(PbSO4)、重晶石(BaSO4)など、鉛やモリブデン、あるいはそれらと共生しやすい元素を含む鉱物と共存することが多いです。

代表的な産地

世界各地で産出していますが、特に有名な産地としては、アメリカ合衆国アリゾナ州(特にモレンシー、トゥーソン周辺)、ニューメキシコ州オーストリア(ケルンテン州)、ナミビアメキシコなどが挙げられます。これらの地域では、美しい結晶形をした褐鉛鉱が採掘され、鉱物コレクターの間で高い評価を得ています。

用途と意義

鉱物標本としての価値

褐鉛鉱の主な用途は鉱物標本としての収集です。その鮮やかな色彩、美しい結晶形、そして多彩な色合いは、多くの鉱物愛好家を魅了します。特に、大型で形状が整っており、発色が鮮やかな標本は高値で取引されます。

産業的な利用

化学組成に鉛とモリブデンを含むため、理論的にはこれらの元素の供給源となり得ます。しかし、褐鉛鉱は一般的に二次鉱物であり、一次鉱物である輝水鉛鉱(モリブデン鉱)や閃モリブデン鉱((Mo,W)S2)のような主要なモリブデン鉱床を形成することは稀です。そのため、産業的にはモリブデンの主要な採掘対象とされることは少なく、専らモリブデンの回収は、より経済的な鉱床から行われます。

ただし、他のモリブデン鉱物と共生している場合や、特殊な鉱床においては、副産物として回収される可能性はあります。モリブデンは、合金鋼の強度向上、触媒、潤滑剤などに広く利用される重要な金属です。

その他

発見と命名

褐鉛鉱は、1845年にオーストリアの鉱物学者ヴィルヘルム・ハイトジンガー(Wilhelm Haidinger)によって記載され、ドイツの鉱物学者カール・フリードリヒ・モール(Karl Friedrich Mohr)にちなんで命名されました。

類似鉱物

褐鉛鉱は、その色や形状から、他の鉱物と混同されることがあります。例えば、鉛を含むクロム酸塩鉱物である黄鉛鉱(PbCrO4)は、しばしば褐鉛鉱と似た産状で産出し、色も似ていることがありますが、化学組成が異なります。また、色調によっては、他のモリブデン酸塩鉱物や、鉛を含む鉱物と鑑別が必要です。

趣味としての魅力

褐鉛鉱は、その美しさから、鉱物採集化石・鉱物標本の収集といった趣味の世界で非常に人気があります。特に、結晶が大きかったり、結晶面が平滑で光沢があったり、あるいは複数の結晶が集合して美しいクラスターを形成している標本は、コレクター垂涎の的となります。産地によって結晶の形態や色彩に特徴が見られることもあり、産地ごとのコレクションを楽しむ人もいます。

まとめ

褐鉛鉱は、鮮やかな色彩と板状の結晶形が特徴的なモリブデン酸鉛鉱物です。鉛やモリブデンの鉱床の酸化帯で二次鉱物として生成され、世界各地で産出します。その美しさから、主に鉱物標本として収集されています。産業的な重要性は限定的ですが、その魅力的な外観は多くの人々を惹きつけ、趣味の世界に彩りを添えています。