天然石

単斜輝石

単斜輝石:詳細・その他

単斜輝石とは

単斜輝石(たんしゃきせき、Clinopyroxene)は、輝石(きせき、Pyroxene)グループに属する鉱物の一種です。輝石グループは、ケイ酸塩鉱物の中でも、直鎖状のケイ酸塩鎖構造を持つ鉱物の総称であり、その中でも単斜輝石は、結晶構造が単斜晶系であることからその名が付けられました。

化学組成としては、一般的にM(Si,Al)2O6の式で表されます。ここで、Mは主にカルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)などの陽イオンであり、これらの陽イオンの比率によって、様々な変種が存在します。特に、カルシウムとマグネシウム、鉄の割合が単斜輝石の性質を大きく左右します。

単斜輝石は、地殻やマントルに広く分布する主要な岩石形成鉱物の一つです。火成岩、変成岩、堆積岩など、様々な種類の岩石中に産出します。特に、玄武岩や閃緑岩、安山岩などの塩基性・中間性の火成岩に多く含まれる傾向があります。また、高温高圧下で形成される変成岩にもしばしば見られます。

その特徴的な結晶構造から、輝石グループの中でも多様な性質を示す鉱物群であり、地質学的な研究において重要な役割を果たしています。岩石の成因や形成環境、地球内部の構造などを解明する手がかりとなります。

結晶構造と物理的性質

結晶系と結晶構造

単斜輝石の最も重要な特徴は、その結晶構造が単斜晶系であることです。単斜晶系は、3つの格子定数のうち2つが等しく、残りの1つが異なり、3つの格子軸のなす角のうち、1つが90度でなく、残りの2つが90度である結晶系です。単斜輝石の結晶構造は、(SiO4)四面体の鎖が、Mサイトの陽イオンによって結びついた直鎖状の構造(単鎖構造)を持っています。

この単鎖構造は、輝石グループ全体に共通する特徴ですが、単斜輝石においては、その鎖が特定の方向(Z軸方向)に伸び、Mサイトの陽イオンが斜めに配置されることで、単斜晶系の対称性が生まれます。

色と光沢

単斜輝石の色は、その化学組成、特に鉄の含有量によって大きく変化します。純粋な単斜輝石は無色透明ですが、鉄イオン(Fe2+、Fe3+)が混入すると、緑色、黒緑色、褐色、黒色といった色調を呈します。例えば、鉄の含有量が多いヘデン輝石は黒色に近くなります。

一般的に、単斜輝石はガラス光沢を持っています。ただし、結晶の表面が風化していたり、微細なインクルージョン(内包物)が多く含まれる場合は、亜金属光沢や樹脂光沢を示すこともあります。

硬度、劈開、断口

モース硬度は、一般的に5.5~6.5程度であり、比較的硬い鉱物です。ナイフで傷をつけることは難しいですが、水晶(硬度7)よりは柔らかいです。

劈開(へきかい)は、結晶が特定の平面に沿って割れやすい性質のことです。単斜輝石は、2方向の完全な劈開を持ち、その劈開面は、おおよそ90度に近い角度で交差します。これは、単斜輝石の結晶構造に由来するもので、輝石グループの重要な識別点の一つです。この劈開は、しばしば結晶の側面に見られる線状の模様として観察されます。

断口(だんこう)は、結晶が割れたときに現れる表面の形状です。単斜輝石の断口は、一般的に貝殻状断口を示すことが多いですが、不規則な断口を示すこともあります。

比重

単斜輝石の比重は、その組成によって異なりますが、一般的に3.2~3.6程度です。鉄の含有量が増加すると、比重は高くなる傾向があります。例えば、鉄を多く含むヘデン輝石は、より高い比重を示します。

主要な単斜輝石の変種

単斜輝石は、その化学組成の違いによって、数多くの変種に分類されます。これらの変種は、それぞれ独自の性質や産状を示し、地質学的に重要な情報を提供します。

透輝石 (Diopside)

化学組成は CaMgSi2O6 です。マグネシウムを多く含み、無色から淡緑色を呈します。変成岩やアルカリ玄武岩などに産出します。宝石としても利用されることがあります。

ヘデン輝石 (Hedenbergite)

化学組成は CaFeSi2O6 です。鉄を多く含み、黒緑色から黒色を呈します。透輝石と連続固溶体を形成します。火成岩や変成岩中に産出します。

灰鉄輝石 (Ferrosalite)

化学組成は Ca(Fe,Mg)Si2O6 で、透輝石とヘデン輝石の中間的な組成を持ちます。鉄とマグネシウムの比率によって、色調が変化します。

オンファス輝石 (Omphacite)

化学組成は (Ca,Na)(Mg,Fe,Al)Si2O6 で、ナトリウム(Na)やアルミニウム(Al)を比較的多く含みます。緑色を呈し、エクロジャイトという特殊な変成岩の主要構成鉱物です。高圧下での変成作用を受けた岩石の特徴を示します。

野中輝石 (Johannsenite)

化学組成は CaMnSi2O6 です。マンガンを多く含み、淡黄色から褐色を呈します。マンガン鉱床などに産出します。

産状と分布

火成岩中の産状

単斜輝石は、火成岩、特に塩基性・中間性の火成岩において非常に一般的な鉱物です。玄武岩、安山岩、閃緑岩、玄武岩質凝灰岩など、マグマの組成や冷却速度によって様々な火成岩中に生成します。

マグマが冷却固化する過程で、比較的高い温度で結晶化し始め、鉱物群集の初期段階から存在することが多いです。しばしば、斜長石やカンラン石(カンラン石が安定な条件では)、黒雲母などと共に産出します。マグマの組成や分化の度合いによって、単斜輝石の種類も変化します。

変成岩中の産状

単斜輝石は、様々な種類の変成岩にも広く見られます。特に、角閃石片岩、グラニュライト、エクロジャイトなどの高温・高圧下で形成される変成岩の主要な構成鉱物となることがあります。

変成作用の温度や圧力条件によって、単斜輝石の化学組成は大きく影響を受けます。例えば、オンファス輝石は、エクロジャイトという極めて高い圧力下で形成される変成岩の代表的な鉱物です。変成岩中の単斜輝石の存在や組成は、その岩石がどのような地質環境で形成されたかを理解する上で重要な情報源となります。

その他の産状

単斜輝石は、一部の堆積岩や熱水鉱床、ペグマタイトなどにも見られます。風化・浸食によって原岩から供給された単斜輝石が、砂や礫といった堆積物中に含まれることがあります。また、熱水作用によって、既存の岩石中に再結晶したり、新たに生成したりすることもあります。

単斜輝石の利用と重要性

地質学的な指標

単斜輝石の存在、種類、化学組成は、岩石の成因、形成された温度・圧力条件、マグマの進化過程などを解明するための重要な地質学的な指標となります。特に、火成岩の分類や変成岩の帯状構造の研究において、単斜輝石の分析は不可欠です。

例えば、玄武岩中の単斜輝石の組成を分析することで、そのマグマが地球内部のどの深部から上昇してきたのか、どのような分化を経て地表に到達したのかといった情報を得ることができます。また、変成岩中のオンファス輝石の存在は、その岩石がプレートの沈み込み帯などで高圧・低〜中温の変成作用を受けたことを示唆します。

鉱物資源としての利用

一部の単斜輝石は、その美しい色調や透明度から宝石として利用されることがあります。例えば、透輝石の緑色を呈するものは、エメラルドに似た色合いを持つことから、装飾品に用いられることがあります。また、野中輝石などのマンガンを多く含む単斜輝石は、マンガン資源として研究されることもあります。

その他の用途

単斜輝石は、その硬度や耐久性から、建材や研磨剤としての利用が検討されることもありますが、他の鉱物に比べて一般的ではありません。しかし、特定の用途においては、その特性が活かされる可能性があります。

まとめ

単斜輝石は、輝石グループに属する重要なケイ酸塩鉱物であり、その単斜晶系の結晶構造、多様な化学組成、そしてそれに伴う幅広い物理的性質によって特徴づけられます。地殻やマントルに広く分布し、火成岩、変成岩、堆積岩など、様々な岩石中に見られます。透輝石、ヘデン輝石、オンファス輝石といった多様な変種は、それぞれ独自の産状と地質学的な意味を持ちます。

単斜輝石の存在と組成の分析は、岩石の成因や地球内部の理解に不可欠な情報を提供し、地質学研究において極めて重要な役割を果たしています。また、一部は宝石としての利用もされており、その美しさでも人々を魅了します。単斜輝石は、地質学的な探求だけでなく、天然資源としての側面も持つ、多岐にわたる重要性を持った鉱物と言えるでしょう。