天然石

灰柱石

灰柱石(かいちゅうせき)の詳細

概要

灰柱石(かいちゅうせき、Hedenbergite)は、輝石(きせき)グループに属する鉱物です。化学組成はCaFe2+Si2O6で、カルシウム(Ca)、鉄(Fe)、ケイ素(Si)、酸素(O)から構成されています。その名称は、スウェーデンの鉱物学者イェンス・グスタフ・ヘーデンベリ(Jens Gustav Hedenberg)にちなんで名付けられました。灰柱石は、鉄分を豊富に含むことから、しばしば暗緑色から黒色を呈します。単斜輝石(たんしゃきせき)のグループに分類され、鉄(Fe2+)がマグネシウム(Mg)に置換されたものとして、同じく単斜輝石である透輝石(とうきせき、Diopside; CaMgSi2O6)の鉄質端成分(てつしつたんせいぶん)とみなされます。この透輝石との固溶体(こようたい)系列は、透輝石-灰柱石系列(Diopside-Hedenbergite series)と呼ばれ、地質学的に重要な役割を果たしています。

鉱物学的特徴

灰柱石の結晶構造は、単斜晶系(たんしゃしょうけい)に属し、その結晶系は斜方晶系(しゃほうしょうけい)の斜長石(しゃちょうせき)などとは異なります。結晶は、柱状(ちゅうじょう)または針状(しんじょう)を呈することが多く、これが「柱石」という和名の由来ともなっています。まれに、板状(ばんじょう)や粒状(りゅうじょう)の集合体としても産出します。劈開(へいかい)は、輝石グループの一般的な特徴である{110}に約87度と93度の角度で良好に発達しています。この劈開は、鉱物鑑定において重要な手がかりとなります。モース硬度は5.5~6.5程度であり、比較的硬い鉱物に分類されます。比重は3.5~3.6程度です。透明度は、自形結晶(じけいけっしょう)では透明から半透明ですが、集合体や不純物を含む場合は不透明となることが多いです。色は、鉄の含有量によって緑色を帯びたものから、暗緑色、黒色まで幅広く見られます。特に鉄(Fe2+)を多く含むため、特徴的な暗色を呈します。

化学組成と構造

灰柱石の化学組成は、CaFe2+Si2O6です。この化学式は、カルシウム(Ca)、二価の鉄(Fe2+)、ケイ素(Si)、酸素(O)の原子比率を示しています。輝石グループの基本的な構造は、SiO4四面体(しめんたい)が鎖状に連なった(Si2O64-という無限鎖構造(むげんさこうぞう)を形成しています。この鎖状構造を、Ca2+イオンとFe2+イオンが架橋(かきょう)するように結合しています。灰柱石は、このFe2+がMg2+と置換された透輝石(Diopside; CaMgSi2O6)との間に固溶体(こようたい)を形成します。すなわち、灰柱石の結晶中には、MgがFeの一部、あるいは大部分を占める透輝石成分が含まれていることが一般的です。また、輝石グループでは、Na+などがCa2+と、Al3+などがFe2+やMg2+と置換されることもあり、灰柱石もこれらの元素を含む場合があります。しかし、主成分としてCaとFe2+を多く含むことが、灰柱石の定義となります。

産状と共生鉱物

灰柱石は、主に変成岩(へんせいがん)中に産出します。特に、石灰岩(せっかいがん)やドロマイトが、マグマの熱や流体によって接触変成作用(せっしょくへんせいさよう)を受けたスカルン鉱床(すかるんこうしょう)において、普遍的に見られる鉱物の一つです。スカルン鉱床は、ケイ酸塩鉱物と炭酸塩鉱物が反応して生成される特殊な鉱床であり、灰柱石はその代表的な構成鉱物となっています。スカルン鉱床では、灰柱石は、ガーネット(特にアンドラダイトやグロシュラライト)、角閃石(かくせんせき)、方解石(ほうかいせき)、磁鉄鉱(じてつこう)、黄鉄鉱(おうてっこう)、石英(せきえい)など、様々な鉱物と共生します。また、火成岩(かせいがん)中、特に苦鉄質岩(くてつしつがん)や超苦鉄質岩(ちょうくてつしつがん)の斑晶(はんしょう)としても産出することがあります。まれに、熱水変質帯(ねっすいへんしつたい)においても生成されることがあります。産出する地域としては、スウェーデン、アメリカ合衆国(カリフォルニア州、アラスカ州など)、カナダ、ロシア、フィンランド、イタリア、日本などが知られています。

名称の由来

灰柱石の名称「Hedenbergite」は、19世紀のスウェーデンの化学者であり鉱物学者であったイェンス・グスタフ・ヘーデンベリ(Jens Gustav Hedenberg, 1787-1861)にちなんで命名されました。彼は、鉱物学および分析化学の分野で功績を残した人物であり、その研究成果を称えてこの鉱物に名前が与えられました。日本語の「灰柱石」という名称は、その外観や特徴に由来していると考えられます。「灰」は、その暗色でややくすんだ色合いを、「柱」は、柱状に結晶する特徴を表していると推測されます。

用途と意義

灰柱石は、その産出量から見て、経済的に重要な鉱物資源として扱われることは稀です。しかし、鉱物学的な研究においては、輝石グループの透輝石との固溶体系列を理解する上で重要な位置を占めています。地質学的には、灰柱石の産出は、その岩石がどのような変成作用やマグマ活動を受けたかを知る手がかりとなります。特に、スカルン鉱床は、金属鉱床(きんぞくこうしょう)が形成される場所でもあるため、灰柱石の存在は、鉱床探査の指標となる可能性も秘めています。また、一部の灰柱石は、その独特な色合いや結晶形から、コレクター向けの標本として価値を持つことがあります。しかし、装飾品として加工されることは、その硬度や劈開性、そして外観から、一般的ではありません。

発見と歴史

灰柱石は、1819年にスウェーデンのベルイェルモン(Bjelkermon)で発見されたとされています。当初は、別の鉱物として研究されていましたが、その後の詳細な化学分析と構造解析により、輝石グループに属する独立した鉱物であることが明らかになり、ヘーデンベリの名を冠して命名されました。19世紀から20世紀にかけて、輝石グループの鉱物学的研究が進む中で、灰柱石は透輝石との関係性が明確にされ、その位置づけが確立されました。現在でも、灰柱石は、地球内部の熱や圧力、化学組成といった地質学的環境を理解するための研究対象となっています。

まとめ

灰柱石は、CaFe2+Si2O6を主成分とする輝石グループの鉱物であり、暗緑色から黒色を呈する柱状結晶が特徴です。透輝石との固溶体系列を形成し、主にスカルン鉱床や一部の火成岩中に見られます。その名称は、スウェーデンの鉱物学者ヘーデンベリに由来しています。経済的な利用価値は低いものの、地質学的な研究においては、岩石の形成環境を理解するための重要な指標となります。コレクターズアイテムとしての側面も持ち合わせています。