天然石

ダイアスポア

ダイアスポア:詳細・その他

鉱物学的な特徴

組成と構造

ダイアスポア(Diaspore)は、アルミニウムの酸化水酸化物であり、化学式はAlO(OH)で表されます。これは、アルミニウムイオン(Al3+)、酸素イオン(O2-)、および水酸化物イオン(OH)から構成されています。結晶構造においては、斜方晶系に属し、その空間群はPbnmです。構造は、カモサイト型構造として知られるAlO6八面体が連なった層状構造を特徴とします。これらの八面体は、辺を共有してシート状を形成し、シート間は水素結合によって連結されています。この水素結合の存在が、ダイアスポアの劈開性や硬度に影響を与えています。

物理的性質

モース硬度はおよそ6.5~7であり、これは石英(モース硬度7)に匹敵する硬さです。この硬さにより、宝石や工業原料としても利用されることがあります。比重は約3.3~3.5であり、比較的重い鉱物といえます。条痕色は白色です。

光沢はガラス光沢から真珠光沢を示し、透明なものはガラス光沢が顕著です。へき開は一方向に完全であり、これが結晶の劈開面として観察されます。劈開面は、光を反射して真珠光沢を呈することがあります。

色彩

ダイアスポアの色彩は非常に多様です。純粋なものは無色または白色ですが、不純物として含まれる金属イオンの種類によって様々な色を呈します。

  • 鉄(Fe):黄褐色、褐色、赤褐色
  • マンガン(Mn):ピンク色、紫色
  • クロム(Cr):緑色
  • バナジウム(V):青緑色

特に、バナジウムやクロムを含むものは、鮮やかな色彩を呈し、宝石として注目されることがあります。変色効果を示すものも存在し、光源によって色彩が変化する現象が見られます。これは、希土類元素や遷移金属元素の微量混入に起因すると考えられています。

産状と分布

生成環境

ダイアスポアは、変成岩や火成岩の熱水変質作用、あるいは堆積岩の広域変成作用によって生成されます。特に、アルミニウムに富む泥質岩や火成岩が、水の存在下で熱と圧力を受けることで形成されることが多いです。

アルミニウムに富む鉱床、例えばボーキサイトの二次生成物としても産出します。ボーキサイトは、アルミニウムの主要な工業原料ですが、その生成過程でダイアスポアが形成されることがあります。石灰岩やドロマイトなどの炭酸塩岩の接触変成帯でも見られることがあります。

世界的な産地

ダイアスポアは世界各地で産出しますが、特に高品質で宝石として利用できるものが産出する地域としては、以下のような場所が挙げられます。

  • ロシア(ウラル山脈地方):特にバナジウムを含む青緑色のものが有名です。
  • アメリカ合衆国(カリフォルニア州):イエローやピンクのものが産出します。
  • トルコ:オレンジ、イエロー、ピンク、グリーンなど、多様な色彩のものが産出しています。
  • ミャンマー:ピンクやイエローのものが知られています。
  • 中国:ボーキサイト鉱床に伴って産出します。
  • メキシコ:イエローやブラウンのものが産出します。

これらの地域以外にも、カナダ、オーストラリア、アフガニスタンなど、様々な国で産出が報告されています。産地の条件によって、ダイアスポアの色彩や品質が大きく異なります。

用途と利用

宝飾品としての利用

ダイアスポアは、その多様な色彩と輝きから宝石としても利用されます。特に、バナジウムやクロムによって鮮やかな緑色や青緑色を呈するものは、「ツァボライト」(ガーネットの一種)や「アレキサンドライト」(クリソベリル)に似た変色効果を示す場合があり、コレクターの間で人気があります。

トルコ産のオレンジやピンクのダイアスポアは、「トルコ石」(ターコイズ)に似た風合いを持つことから、「トルコ・ダイアスポア」とも呼ばれ、宝飾品として流通しています。

カッティングや研磨が施され、指輪、ペンダント、イヤリングなどの宝飾品に加工されます。透明度が高く、インクルージョン(内包物)が少ないものは、高価で取引される傾向があります。

工業原料としての利用

ダイアスポアは、アルミニウムの酸化水酸化物であるため、アルミニウムの鉱石としても重要です。特に、ボーキサイト鉱床における主要な鉱物の一つとして、アルミニウムの精錬に利用されることがあります。

ただし、ボーキサイトの主成分としては、ギブサイト(Al(OH)3)やベーマイト(AlO(OH)、ダイアスポアと同じ化学組成だが結晶構造が異なる)がより一般的です。ダイアスポアは、これらと比較して融点が高いため、アルミニウムの精錬においては、高温での処理が必要となる場合があります。

また、その硬さと耐火性から、耐火材や研磨材としての利用も検討されることがあります。

その他

ダイアスポアは、鉱物標本としても収集家にとって魅力的な鉱物です。多様な色彩と美しい結晶形は、鉱物コレクターに人気があります。特定の産地のダイアスポアは、その産地の地質学的特徴を反映しており、研究対象としても価値があります。

鉱物としての名称と関連事項

名称の由来

ダイアスポア(Diaspore)という名称は、ギリシャ語の「διασπορά」(diaspora)に由来しています。これは、「分散」や「散布」といった意味を持ちます。この名称は、ダイアスポアが変成作用や熱水作用によって、岩石中に分散して生成される様子を表していると考えられています。

類縁鉱物

ダイアスポアと同じ化学組成(AlO(OH))を持ちながら、結晶構造が異なる鉱物としてベーマイト(Boehmite)があります。ベーマイトは単斜晶系に属し、ダイアスポアとは異なる物理的性質を示します。ボーキサイト鉱床では、これらダイアスポアとベーマイトが混在して産出することが一般的です。

また、アルミニウムの水酸化物としては、ギブサイト(Gibbsite, Al(OH)3)も存在し、これら3つの鉱物はアルミニウムの主要な鉱石として重要です。

識別

ダイアスポアは、その硬さ、劈開、光沢、そして色彩によって他の鉱物と識別されます。例えば、石英(クォーツ)はダイアスポアと同じくらいの硬度を持ちますが、劈開がありません。また、ベリル(緑柱石)なども緑色を呈しますが、結晶構造や硬度、劈開が異なります。

宝石として識別する際には、屈折率、分散(ファイア)、比重などの光学特性や物理的特性を測定することが一般的です。専門的な鑑別器械を使用することで、正確な識別が可能となります。

まとめ

ダイアスポアは、AlO(OH)の化学組成を持つアルミニウムの酸化水酸化物であり、斜方晶系の鉱物です。その硬さ、多様な色彩、そして美しい光沢から、宝石としても、またアルミニウムの鉱石としても重要な鉱物です。

変成岩や熱水変質岩、ボーキサイト鉱床などに産出し、世界各地で採掘されています。特にバナジウムやクロムを含むものは、鮮やかな色彩や変色効果を示し、宝飾品として高い価値を持ちます。

工業原料としては、アルミニウムの精錬や、耐火材、研磨材としての可能性も秘めています。鉱物標本としても人気があり、その地質学的な意義も大きい鉱物と言えます。