アタカマ石(Atacamite)
概要
アタカマ石は、化学式 Cu2(OH)3Cl で表される銅の塩化物鉱物です。鮮やかな緑色や緑青色を呈し、しばしば針状や繊維状の結晶として産出されます。その名称は、チリ北部のアタカマ砂漠に由来しており、この地域がアタカマ石の代表的な産地の一つであることから名付けられました。アタカマ石は、銅鉱床の二次生成物として、あるいは塩類湖の沈殿物として見られます。
鉱物学的特徴
化学組成と結晶構造
アタカマ石の化学組成は、銅(Cu)、水酸基(OH)、そして塩素(Cl)から構成されています。その結晶構造は、銅原子が酸素原子と水酸基、そして塩素原子と配位結合した複雑な三次元ネットワークを形成しています。この構造が、アタカマ石特有の物理的・化学的性質を決定づけています。
物理的性質
- 色:鮮やかな緑色、緑青色、あるいは黒緑色。産地や含有される不純物によって色合いが変化します。
- 光沢:ガラス光沢から絹糸光沢。結晶の形状によって異なります。
- 条痕:淡緑色。
- 結晶系:斜方晶系。
- 結晶形状:針状、繊維状、板状、厚板状など。しばしば集合して、緻密な塊や地殻を形成します。
- 劈開:{010}に完全。
- 断口:貝殻状から不平坦。
- 硬度:3~3.5(モース硬度)。比較的柔らかい鉱物です。
- 比重:3.7~3.8。
- 透明度:半透明から不透明。
化学的性質
アタカマ石は、水にほとんど溶けませんが、アンモニア水には溶けて青色の錯体を形成します。また、加熱すると分解して黒色の酸化銅と塩化水素ガスを発生させます。酸には溶けやすい性質を持っています。
産状と生成環境
アタカマ石は、主に乾燥地帯の銅鉱床において、既存の銅鉱物が風化・酸化・水和作用を受けた二次生成物として生成されます。特に、石灰岩やドロマイトなどの炭酸塩岩が分布する地域で、銅鉱石が露出している場合に多く見られます。また、塩類湖の堆積物としても産出されることがあり、この場合、塩素イオンの供給源として海水や塩湖水が関与しています。
代表的な産地としては、チリのアタカマ砂漠、アメリカ合衆国のアリゾナ州やカリフォルニア州、メキシコ、ペルー、ギリシャ、イタリアなどが挙げられます。
アタカマ石の鉱物グループ
アタカマ石は、アタカマ石グループと呼ばれる一群の鉱物の主成分鉱物です。このグループには、アタカマ石の他に、パライバ石(Paratacamite)やラブロック石(Roggite)などが含まれます。これらの鉱物は、アタカマ石と類似した化学組成や構造を持っていますが、結晶構造や水和度などが異なります。
用途と利用
アタカマ石は、それ自体が直接的な工業利用されることは稀ですが、銅の二次鉱物として、銅鉱石の探査や評価における指標鉱物として重要です。また、その鮮やかな緑色は、美術品や装飾品に用いられる顔料の原料となる可能性も秘めていますが、一般的には他の銅化合物がより広く利用されています。
希少な標本は、鉱物コレクターの間で人気があります。特に、美しい結晶形や鮮やかな色を持つものは、高い評価を得ます。
アタカマ石の識別
アタカマ石を他の緑色の銅鉱物(例:孔雀石、藍銅鉱)と区別するには、以下の点を考慮すると良いでしょう。
- 結晶形:アタカマ石はしばしば針状や繊維状の集合体として見られます。孔雀石は通常、縞模様のある腎臓状や扇状の集合体、藍銅鉱は板状の結晶や塊状で産出します。
- 硬度:アタカマ石は比較的柔らかく(3~3.5)、孔雀石(3.5~4)や藍銅鉱(3.5~4)と比べてわずかに硬度が低い傾向があります。
- 色合い:アタカマ石は鮮やかな緑色や緑青色を呈しますが、孔雀石はより濃い緑色、藍銅鉱は鮮やかな青色を呈することが多いです。ただし、色の違いは絶対的なものではありません。
- 劈開:アタカマ石は特定の方向に劈開を示しますが、孔雀石には劈開がほとんど見られません。
確実な同定には、X線回折などの専門的な分析が必要となる場合もあります。
まとめ
アタカマ石は、その美しい緑色と特徴的な針状・繊維状の結晶形から、鉱物愛好家にとって魅力的な鉱物です。乾燥地帯の銅鉱床における二次生成物として生成され、銅の存在を示す指標鉱物としても重要です。その鉱物学的特徴を理解することで、この鉱物の生成環境や地球科学的な意義をより深く知ることができます。