天然石

アンケル石

アンケル石(Ankerite)の詳細・その他

概要

アンケル石は、化学組成が Ca(Fe^{2+},Mg)(CO_3)_2 で表される炭酸塩鉱物の一種です。ドロマイト(苦灰石)の鉄(Fe)に富む類似体として位置づけられ、しばしばドロマイトや方解石(カルサイト)など他の炭酸塩鉱物と共生します。その名前は、19世紀のドイツの鉱物学者であるカール・フリードリヒ・アンケル(Carl Friedrich Anker)にちなんで名付けられました。

アンケル石は、その組成中に鉄(Fe)を含むため、純粋なドロマイトと比較してやや暗い色合いを持つことが一般的です。色は、淡黄色から茶褐色、赤褐色、さらには黒色を呈することもあります。これは、組成中の鉄の酸化状態や量に依存します。

鉱物学的特徴

化学組成と構造

アンケル石の化学組成は Ca(Fe^{2+},Mg)(CO_3)_2 と表されます。これは、カルシウム(Ca)と炭酸イオン(CO32-)が結合した構造の中に、鉄(Fe2+)とマグネシウム(Mg)が固溶していることを示しています。厳密には、アンケル石はドロマイト(CaMg(CO_3)_2)と、鉄のドロマイト( siderite、FeCO_3)の間の固溶体ともみなせますが、一般的には鉄を多く含むドロマイトグループの鉱物として扱われます。

結晶構造は、ドロマイトと同様に菱面体晶系に属し、菱面体(rhombohedron)の結晶形をとることが多いです。結晶面にはしばしば条線が見られます。結晶は、粒状、塊状、柱状など様々な形態で産出します。

物理的性質

  • : 淡黄色、黄褐色、茶褐色、赤褐色、暗褐色、黒色
  • 光沢: ガラス光沢、真珠光沢
  • 透明度: 半透明~不透明
  • 条痕: 白色
  • 硬度: モース硬度 3.5~4.5
  • 比重: 3.0~3.2
  • 劈開: 菱面体劈開({1014}に完全)
  • 断口: 不平坦~貝殻状
  • 粉砕性: 容易に粉砕される

アンケル石は、ドロマイトよりもやや比重が重く、硬度も若干低い傾向があります。酸との反応性は、ドロマイトよりもやや穏やかですが、塩酸にゆっくりと反応し、泡立ちます。

産状と生成環境

アンケル石は、主に中~低程度の温度と圧力下で生成する鉱物です。その産状は多様で、以下のような環境で見られます。

  • 変成岩: 石灰岩やドロマイトが熱変成作用や広域変成作用を受ける際に、方解石、ドロマイト、透輝石、緑簾石などと共に生成します。特に、鉄分を多く含む変成岩中に見られます。
  • 熱水鉱床: 鉄やカルシウムを含む熱水溶液が、炭酸塩岩や火成岩などと反応して沈殿する際に生成することがあります。
  • 堆積岩: 堆積物中に含まれる鉄質成分と炭酸塩成分が反応して生成したり、古生代の海洋環境で生物由来の有機物や鉄分と共沈して生成したりする場合があります。
  • 鉱脈: 硫化物鉱床などに伴って、方解石やドロマイトと共に産出することがあります。

アンケル石は、しばしばドロマイトや方解石、鉄礬(てつばん、siderite)など、他の炭酸塩鉱物と互いに侵食し合ったり、共生したりする関係にあります。これらの共生関係や鉱物相から、生成当時の地質学的条件を推測する手がかりとなります。

識別と鑑別

アンケル石の識別は、その外観や物理的性質、そして共生鉱物との関係から行われます。特に、ドロマイトや方解石との区別が重要になります。

  • : アンケル石は、ドロマイトや方解石よりも一般的に暗い色合いを呈することが多いです。ただし、鉄の含有量によっては、淡い色の場合もあります。
  • 酸への反応: ドロマイトや方解石は、冷塩酸に容易に反応して激しく泡立ちますが、アンケル石はそれらよりも反応が穏やかです。加熱すると反応が促進されることがあります。
  • 硬度と比重: アンケル石は、ドロマイトよりもやや硬度が低く、比重が重い傾向があります。
  • 共生鉱物: 変成岩や熱水鉱床において、ドロマイトや方解石、緑簾石、透輝石などと共に産出する場合、アンケル石である可能性が高まります。

正確な識別には、X線回折(XRD)や化学分析などの鉱物学的分析が必要となる場合もあります。

用途と重要性

アンケル石は、それ自体が直接的な工業用途を持つことは限定的です。しかし、以下の点で重要性を持っています。

  • 地質学的指標: アンケル石の産状や共生鉱物は、その生成環境における温度、圧力、化学組成などを知るための重要な指標となります。特に、変成岩の成因や鉱化作用の研究において役立ちます。
  • 鉱床学研究: 鉄を含む炭酸塩鉱物として、金属鉱床の形成過程や、岩石の風化・変質作用の研究において、その存在が考慮されます。
  • 装飾品・鉱物標本: 美しい色合いや特徴的な結晶形を持つアンケル石は、鉱物コレクターにとって魅力的な標本となります。一部では、装飾品として加工されることもあります。

また、アンケル石は、地球の炭素循環や岩石の物質循環を理解する上でも、その構成要素としての役割を担っています。

その他

名称の由来

アンケル石(Ankerite)は、19世紀のドイツの鉱物学者、カール・フリードリヒ・アンケル(Carl Friedrich Anker, 1794-1867)にちなんで命名されました。彼は、鉱物学および地質学の分野で研究を行い、その功績が称えられ、この鉱物にその名が冠せられました。

類似鉱物

アンケル石は、ドロマイトグループの鉱物であり、その組成や構造において類似する鉱物がいくつか存在します。特に重要なのは以下の鉱物です。

  • ドロマイト (Dolomite): CaMg(CO_3)_2。アンケル石よりもマグネシウム(Mg)を多く含み、一般的に白色~無色です。
  • 鉄礬 (Siderite): FeCO_3。アンケル石よりも鉄(Fe)を多く含み、一般的に茶褐色~黒色を呈します。
  • ローレンツ石 (Loughlinite): Ca(Fe^{2+})(CO_3)_2。アンケル石の鉄(Fe2+)のみで構成される端成分ですが、自然界では単独での産出は稀で、アンケル石として存在することが多いです。

これらの鉱物は、鉄とマグネシウムの比率によって区別されます。

鉱物コレクションとしての魅力

アンケル石は、その多様な色合いと、しばしば共生する他の鉱物との組み合わせが、鉱物コレクターにとって収集の対象となることがあります。特に、変成岩中に生成した、緑簾石や方解石などと共生するアンケル石の標本は、地質学的な興味深さと視覚的な美しさを兼ね備えています。

代表的な産地としては、スウェーデンのロングバイン(Longban)、アメリカのニューヨーク州(New York)、チリのアルゼンチン国境付近などが挙げられます。

まとめ

アンケル石は、炭酸塩鉱物の一種であり、ドロマイトの鉄に富む類似体として、地質学的に重要な鉱物です。その多様な色合い、変成岩や熱水鉱床といった様々な産状、そして共生鉱物との関係性は、地球の営みを理解する上で貴重な情報源となります。直接的な工業用途は限られますが、地質学的指標、鉱床学研究、そして鉱物コレクションの対象として、その存在意義は大きいと言えます。