輝石グループ
輝石グループは、ケイ酸塩鉱物の中でも非常に広範で重要なグループです。その特徴的な化学組成と結晶構造により、地球の地殻やマントル、さらには隕石にも普遍的に見られます。その多様性は、岩石の成因や地球内部の環境を理解する上で不可欠な情報源となっています。
基本組成と構造
輝石グループの鉱物は、一般的に一般式 (X,Y)Z2O6 で表されます。ここで、XとYは主にMg, Fe2+, Ca, Na, Mn, Liなどの陽イオン、ZはSiとAlなどの陽イオンです。特に、Siは酸素と結合してSiO4四面体(ケイ酸四面体)を形成し、これが輝石グループの結晶構造の基本単位となります。これらのSiO4四面体は、互いに酸素原子を共有しながら、二次元的なシート状(ケイ酸塩シート)を形成します。このシート状構造が、輝石グループの鉱物が持つ特徴的な劈開(へきかい)の方向性にも影響を与えています。
Zサイトには主にSiが入り、一部Alが置換します。XサイトとYサイトには、より多様な陽イオンが入り込み、それぞれのイオン半径や電荷に応じて結晶格子内の特定のサイトに配置されます。このXサイトとYサイトにおける陽イオンの多様な置換が、輝石グループの鉱物に多様な化学組成とそれに伴う物性をもたらしています。
結晶構造としては、単斜輝石と斜方輝石に大別されます。単斜輝石は、単斜晶系に属し、結晶軸の傾きによって特徴づけられます。一方、斜方輝石は、斜方晶系に属します。この結晶構造の違いは、XサイトとYサイトにおける陽イオンの配向や配位数に影響を与え、鉱物の安定性や形成条件にも関わってきます。
主要な鉱物種
輝石グループには数多くの鉱物種が存在しますが、代表的なものとして以下のようなものが挙げられます。
単斜輝石
- 透輝石 (Diopside): CaMgSi2O6 の組成を持つ、カルシウムとマグネシウムを主成分とする輝石です。無色から淡緑色を呈し、変成岩や火成岩に産出します。
- ヘデン輝石 (Hedenbergite): CaFeSi2O6 の組成を持つ、カルシウムと鉄を主成分とする輝石です。暗緑色から黒色を呈します。
- 翡翠輝石 (Jadeite): NaAlSi2O6 の組成を持つ、ナトリウムとアルミニウムを主成分とする輝石です。淡緑色から乳白色を呈し、硬玉(翡翠)として知られています。高圧下で形成される特殊な輝石です。
- アルバイト輝石 (Augite): (Ca,Na)(Mg,Fe2+,Al)Si2O6 の複雑な組成を持つ、最も一般的な輝石の一つです。暗緑色から黒色を呈し、玄武岩や安山岩などの火成岩に多量に産出します。
- エガー輝石 (Aegirine / Acmite): NaFe3+Si2O6 の組成を持つ、ナトリウムと鉄を主成分とする輝石です。赤褐色から黒色を呈し、アルカリ性の火成岩に産出します。
斜方輝石
- エンスタタイト (Enstatite): Mg2Si2O6 の組成を持つ、マグネシウムを主成分とする斜方輝石です。無色から淡緑色を呈し、カンラン石と共に超苦鉄質岩に多く見られます。
- フォステライト (Ferrosilite): Fe2Si2O6 の組成を持つ、鉄を主成分とする斜方輝石です。暗緑色から黒色を呈します。
- ブリッジャイト (Bronzite): エンスタタイトとフォステライトの中間組成で、鉄の量が多くなるとブリッジャイトと呼ばれます。金属光沢を帯びた古銅色を呈することがあります。
- ハイパーシン (Hypersthene): フォステライトに富む斜方輝石で、金属光沢を帯びた灰黒色を呈することがあります。
産状と岩石学的意義
輝石グループの鉱物は、その多様な化学組成と安定域の広さから、様々な地質環境で形成されます。火成岩では、マグマの分化の過程でカンラン石と共に、あるいはカンラン石に続いて晶出することが多く、岩石のタイプ(苦鉄質岩、超苦鉄質岩、中間岩など)を決定する重要な鉱物です。
変成岩においても、輝石は重要な構成鉱物です。特に、広域変成作用や接触変成作用によって、カンラン石や角閃石などから再結晶したり、あるいはマグマから直接晶出したりします。温度や圧力条件によって、形成される輝石の種類が変化するため、変成岩の形成過程や元の岩石の種類(原岩)を推定する上で貴重な手がかりとなります。
また、一部の輝石は、地球深部のマントル岩石にも普遍的に存在します。例えば、かんらん石、斜方輝石、そして緑色または黒色の単斜輝石(アルバイト輝石など)は、マントルの主要な構成鉱物であることが知られています。これらの鉱物の組成や量比を調べることで、地球内部の物質循環やダイナミクスを理解する糸口が得られます。
さらに、隕石の中にも輝石グループの鉱物は頻繁に見られます。特に、石質隕石の主成分としてカンラン石と共に存在し、その組成や結晶構造は、太陽系初期の物質の形成過程や、母天体の内部構造を反映していると考えられています。
物性と識別
輝石グループの鉱物は、一般的に硬度が高く(モース硬度5~6.5程度)、ガラス光沢を呈します。色調は、含まれる鉄やマンガンなどの元素によって、無色、白色、緑色、黒色、褐色、赤褐色など様々です。特徴的なのは、二方向に約87度と93度で交わる劈開を持つことです。この劈開は、輝石の結晶構造に由来するもので、他のケイ酸塩鉱物との識別において重要な特徴となります。
比重は、含まれる元素によって異なりますが、概ね3~3.5程度です。光学的には、単斜輝石は二軸性を示し、斜方輝石は三軸性を示します。これらの光学特性は、偏光顕微鏡を用いた岩石薄片観察において、鉱物同定の重要な手がかりとなります。
化学分析やX線回折による結晶構造解析によって、より詳細な組成や構造を決定することが可能です。これらの分析結果は、鉱物の正確な同定だけでなく、それが形成された地質学的環境の推定にも役立ちます。
その他
輝石グループには、上述した主要な鉱物種以外にも、微量元素の置換や構造的な特徴によって、さらに細かく分類される鉱物種が数多く存在します。例えば、ナトリウムを多く含む輝石(例:ジルコン輝石、ナトロ輝石)や、リチウムを含む輝石(例:ユージクレース、ペトログラード輝石)などがあります。
また、熱水変質や風化作用によって、輝石が他の鉱物に変化(変質)することもあります。例えば、緑泥石、角閃石、あるいは白雲母などに変化した輝石は、岩石の鉱物組成や性質に影響を与えます。
翡翠輝石のように、宝石として珍重される輝石も存在します。硬玉(翡翠)は、その美しい緑色と高い靭性から、古くから宝飾品として世界中で愛されています。翡翠輝石は、一般的に高圧・低音の変成環境で形成されるため、その産地は限定的であり、希少価値を高めています。
まとめ
輝石グループは、その構造的な多様性と広範な化学組成により、地球科学における極めて重要な鉱物グループです。火成岩、変成岩、マントル岩石、そして隕石といった多様な地質環境で形成され、それぞれの産状は、形成された場所の温度、圧力、化学組成といった条件を物語っています。その特徴的な劈開や色調、そして光学特性は、岩石学的な研究において、鉱物同定や岩石の成因解明に不可欠な情報を提供します。今後も、輝石グループの鉱物学的、地球化学的な研究は、地球の内部構造、物質循環、そして太陽系の進化を理解する上で、重要な貢献を続けるでしょう。
