天然石

束沸石

束沸石(そくふっせき)の詳細・その他

概要

束沸石(英語名:Harmotome)は、ケイ酸塩鉱物の一種であり、沸石(ゼオライト)グループに属する鉱物です。その特徴的な結晶構造と、しばしば見られる美しさから、鉱物コレクターの間で人気があります。名称は、ギリシャ語の「harmos」(連結、結合)と「tomos」(切断、部分)に由来し、その結晶が示す双晶の様式にちなんでいます。

化学組成と構造

束沸石の化学組成は、一般的に (Ba, Sr, Ca, Na, K)2[Al2Si6O16]・6H2O で表されます。この組成式からもわかるように、バリウム(Ba)が主成分ですが、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)などの陽イオンが置換していることが多く、その比率によって化学的な性質が変化します。

束沸石の結晶構造は、沸石グループに共通する「シート構造」を持っています。これは、[AlSi3O8]の骨格がシート状に組み合わさり、その間に水分子や陽イオンが収容されている構造です。束沸石の場合、このシート構造が特徴的な方法で積み重なることで、独特の結晶形状を生み出します。特に、擬等軸晶系(偽等軸晶系)と呼ばれる結晶系に属し、実際には単斜晶系に分類されるものの、結晶の対称性が非常に高いため、あたかも等軸晶系のように見えることがあります。この擬等軸性双晶は、束沸石の識別において重要な特徴の一つです。

物理的性質

* **色:** 無色、白色、灰色、淡黄色、淡桃色、淡緑色など、様々です。不純物の影響で色調が変わることがあります。
* **光沢:** ガラス光沢から亜ガラス光沢。
* **透明度:** 透明から半透明。
* **劈開:** 良好な劈開を2方向持ち、約90度で交わります。これが結晶の形状に影響を与えています。
* **断口:** 不平坦状から亜貝殻状。
* **硬度:** モース硬度で約4.5~5.5。比較的脆い鉱物です。
* **比重:** 約2.7~3.0。組成によって多少変動します。
* **条痕:** 白色。
* **熱的性質:** 加熱すると、まず結晶水が失われて構造が変化し、最終的には融解してガラス状になります。

産状と共生鉱物

束沸石は、主に熱水鉱床や低温の変成岩、火山岩の空洞などに産出します。特に、石灰岩などの炭酸塩岩が熱水作用を受けた際に生成することが多いです。

共生鉱物としては、方解石、ドロマイト、石英、緑簾石、閃石類、磁鉄鉱、黄鉄鉱、そして他の沸石鉱物(曹達沸石、輝沸石など)と共産することが知られています。

産地

束沸石は、世界各地で産出が報告されています。代表的な産地としては、以下のような場所が挙げられます。

* **ドイツ:** シュネーベルク(Schneeberg)、ザクセン州(Saxony)など。歴史的に束沸石の産地として有名です。
* **イギリス:** アバディーンシャー(Aberdeenshire)、ダルメナ(Dalmeny)など。
* **フランス:** ボージュ山脈(Vosges Mountains)など。
* **アメリカ合衆国:** ペンシルベニア州(Pennsylvania)、コロラド州(Colorado)など。
* **日本:** 宮城県(大谷)、福島県(石川)、長野県(和田峠)、山梨県(乙女鉱山)など、各地で産出が確認されています。特に、和田峠や乙女鉱山は、他の美しい鉱物と共に産出することで知られています。

### 束沸石の識別と特徴

束沸石の識別には、いくつかの特徴が重要となります。

* **結晶形状:** 束沸石の結晶は、しばしば「羊の腎臓」や「ブドウの房」のように見える集まりを形成します。単独の結晶は、擬四角形や擬六角形、または厚板状に見えることがあります。
* **双晶:** 束沸石は、特徴的な擬等軸晶系双晶を形成します。これは、2つの単斜晶系の結晶が特定の軸を中心に鏡像関係で結合したものです。この双晶様式は、束沸石の分類において非常に重要です。
* **化学組成:** バリウムを主成分とする沸石であるという点が、他の沸石との区別点となります。分析によってバリウムの含有量を確認することで、より確実な同定が可能になります。
* **熱水変質帯での産状:** 熱水変質を受けた岩石の空洞部などに産するという特徴も、識別の一助となります。

### 関連鉱物との比較

束沸石は、沸石グループの中でも特に輝沸石(Harmotome)と非常に似ています。輝沸石は、バリウムとストロンチウムの比率が束沸石とは異なり、よりストロンチウムが多い組成を持っています。結晶学的には、両者は非常に類似していますが、化学組成の違いによって区別されます。しかし、肉眼での区別は困難な場合が多く、化学分析が必要となることもあります。

また、沸石グループには多くの種類があり、それぞれが異なる陽イオン(ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなど)を主成分としています。束沸石は、バリウムを主成分とする沸石として、このグループ内で明確な位置を占めています。

### 利用と用途

束沸石自体に、工業的に広く利用されている用途はありません。しかし、その美しい結晶形状や、他の鉱物と共産する際の魅力から、鉱物標本としての価値が非常に高いです。コレクターにとって、特徴的な双晶や、産地特有の美しい標本は、収集の対象となります。

また、沸石グループ全体としては、イオン交換能や吸着能といった特性から、触媒、吸着剤(例:水の軟化)、ガス分離、土壌改良材など、様々な工業的・環境技術分野で応用されています。束沸石も、その化学構造や特性によっては、将来的に何らかの応用が見出される可能性も否定できません。

### まとめ

束沸石は、バリウムを主成分とする特徴的な構造を持つ沸石鉱物です。擬等軸晶系双晶を形成し、しばしば「羊の腎臓」状の集合体をなすその結晶は、鉱物愛好家にとって魅力的な存在です。熱水鉱床や変成岩など、特定の地質環境で生成され、世界各地から産出が報告されています。その識別には、結晶形状、双晶様式、そして化学組成が重要な手がかりとなります。直接的な工業利用は限定的ですが、鉱物標本としての価値は高く、その学術的な研究も続けられています。