黝方石(ゆうほうせき)の詳細・その他
黝方石とは
黝方石(ゆうほうせき、anthophyllite)は、ケイ酸塩鉱物の一種であり、角閃石グループに属します。化学組成は (Mg,Fe)7Si8O22(OH)2 で、マグネシウムと鉄の比率によって性質が変化します。マグネシウムに富むものが黝方石、鉄に富むものが鉄黝方石と呼ばれますが、一般的には両者をまとめて黝方石と呼ぶことが多いです。無色から褐色、緑褐色、黒色まで様々な色合いを示し、しばしば繊維状や針状の結晶として産出します。
鉱物学的特徴
化学組成と構造
黝方石の化学組成は、マグネシウム (Mg) と鉄 (Fe) の固溶体であり、その比率によって名称が分かれます。マグネシウムに富む端成分は (Mg)7Si8O22(OH)2 で、鉄に富む端成分は (Fe)7Si8O22(OH)2 です。
- 黝方石 (Anthophyllite): Mgに富むもの
- 鉄黝方石 (Ferroanthophyllite): Feに富むもの
これらの固溶体系列は連続的であり、中間的な組成のものも存在します。黝方石の結晶構造は、直鎖状のテトラヒドロシリカゲルト鎖が、マグネシウムや鉄などの金属イオンと水酸基 (OH) によって架橋されたものです。この構造が、しばしば見られる繊維状の外観をもたらします。
物理的性質
- 色: 無色、白色、灰色、淡黄色、緑色、黄褐色、褐色、黒色など、産出場所や鉄の含有量によって多様な色を示します。
- 光沢: ガラス光沢、絹糸光沢(繊維状の場合)
- 条痕: 白色
- 結晶系: 斜方晶系
- 劈開: {110}に完全。二組の劈開面が約56度と124度の角度で交差します。
- 硬度: モース硬度 5.5 – 6
- 比重: 2.85 – 3.2
- 断口: 貝殻状、不平坦状
- 透明度: 透明、半透明、不透明
産状
黝方石は、主に広域変成作用を受けた堆積岩や火成岩中に産出します。特に、苦灰岩(ドロマイト岩)や蛇紋岩、玄武岩などの変成岩中に見られることが多いです。また、接触変成作用によっても生成されることがあります。
代表的な産出場所としては、以下の地域が挙げられます。
- フィンランド
- アメリカ合衆国 (マサチューセッツ州、ノースカロライナ州など)
- カナダ
- ノルウェー
- 日本 (岩手県、長野県など)
しばしば、他の角閃石グループの鉱物(例: 透閃石、アクチノ閃石)や、石榴石、緑簾石、滑石などと共生します。
黝方石の用途と重要性
アスベストとしての歴史
黝方石は、その繊維状の結晶構造から、かつてはアスベスト(石綿)の一種として利用されていました。特に、耐熱性、耐薬品性、絶縁性に優れることから、断熱材、建材、ブレーキライニングなどに広く使用されていました。しかし、アスベストの健康被害が明らかになるにつれて、その使用は世界的に規制されるようになりました。現在では、アスベストとしての利用はほとんど行われていません。
地質学的な意義
黝方石の存在は、その鉱物が形成された変成作用の条件(温度、圧力、化学組成)を知る上で重要な指標となります。特に、マグネシウムと鉄の比率や、他の微量元素の含有量などを分析することで、形成された環境の復元に役立ちます。
宝石としての利用
一部の黝方石は、透明度が高く、美しい色合いを持つことから、カボションカットなどで宝石としても利用されることがあります。しかし、その産出量は少なく、一般的な宝石ではありません。
黝方石の鑑別
黝方石は、他の角閃石グループの鉱物や蛇紋石グループの鉱物と類似していることがあります。鑑別には、以下のような方法が用いられます。
- 偏光顕微鏡観察: 複屈折率、変光色、消光角などの光学特性を観察します。黝方石は、一般的に低~中程度の複屈折率を示し、斜め消光をすることが特徴です。
- X線回折法 (XRD): 結晶構造を解析し、鉱物を同定します。
- 化学分析: EPMA(電子線マイクロアナライザー)などを用いて、元素組成を分析します。
特に、繊維状の鉱物で、偏光顕微鏡下で斜め消光を示す場合は、黝方石やアクチノ閃石などが疑われます。鉄の含有量によって光学特性が変化するため、慎重な観察が必要です。
まとめ
黝方石は、マグネシウムと鉄の固溶体である角閃石グループの鉱物であり、その繊維状の結晶構造から、かつてはアスベストとして重要な役割を担っていました。現在では、その健康被害への懸念から利用は限定的ですが、地質学的な指標として、また稀に宝石としてもその価値が認められています。その生成条件の解明や、鉱物学的な特性の研究は、現在も続けられています。多岐にわたる色合いと、産状の多様性を持つ、興味深い鉱物の一つと言えるでしょう。
