アノーソクレース(Anorthoclase)の詳細・その他
概要
アノーソクレースは、長石グループに属するテクトケイ酸塩鉱物の一種であり、特にナトリウム長石とカリウム長石の固溶体 series において、ナトリウム成分が優位なものです。
化学組成は一般的に (Na,K)AlSi3O8 と表されますが、Na と K の比率によって、ナトリウム長石(アルバイト)とカリウム長石(オルソクレース、マイクロクリン)の間に位置づけられます。アノーソクレースは、この固溶体 series において、長石の低温相であり、無秩序構造を持つことが特徴です。
その名称は、ギリシャ語で「まっすぐではない」を意味する「anorthos」と「割れ目」を意味する「klasis」に由来し、その劈開が直角ではないことにちなんでいます。これは、長石グループの鉱物共通の特徴ですが、アノーソクレースの場合、特にその三斜晶系の構造に起因しています。
鉱物学的特徴
化学組成と結晶構造
アノーソクレースの化学組成は、Na と K の比率によって幅がありますが、一般的に Na > K の関係にあります。理想的には NaAlSi3O8(アルバイト)に近い組成を持ちますが、カリウムが置換している場合も多いです。この Na と K の置換は、長石の固溶体 series における連続的な変化の一部です。
結晶構造は、三斜晶系であり、長石グループの鉱物の中でも、無秩序構造(disordered structure)を持つことが特徴です。これは、ケイ素(Si)とアルミニウム(Al)が T1 sites(テトラヘドラルサイト)において、秩序だった配置をとらず、ランダムに分布している状態を指します。この無秩序構造は、長石の形成温度と冷却速度によって影響を受け、一般的に高温で形成され、速やかに冷却された岩石中に見られます。
物理的性質
アノーソクレースは、モース硬度が6から6.5であり、比較的硬い鉱物です。比重は 2.55 から 2.65 の範囲にあり、長石グループとしては標準的な値を示します。
色は、無色、白色、灰色、淡黄色、淡ピンク色など、様々です。不純物や内包物によって色調が変化することがあります。
光沢は、ガラス光沢を呈します。透明度は、透明から半透明なものが多いですが、結晶の質や内包物によっては不透明になることもあります。
劈開は、{001} 面と {010} 面にほぼ直角(約86度)に2方向に見られます。これは、長石グループの鉱物共通の特徴ですが、アノーソクレースにおいては、その三斜晶系の構造に起因し、厳密な直角ではありません。
断口は、貝殻状断口を示すことがあります。
生成環境
アノーソクレースは、主に火成岩、特にナトリウムに富む火山岩や深成岩に産出します。具体的には、流紋岩、デイサイト、安山岩、閃長岩、トロヨライトなどに含まれることがあります。また、変成岩や堆積岩中にも見られることがあります。
その形成は、比較的高温で、ナトリウム成分が優位なマグマの固結や、ナトリウムとカリウムの比率が変動する条件下で起こると考えられています。
近年、月の玄武岩からもアノーソクレースが発見されており、地球外での存在も確認されています。
産地
アノーソクレースは、世界各地の火山岩地帯や深成岩地帯で産出します。代表的な産地としては、以下のものが挙げられます。
- カナダ: ケベック州、オンタリオ州
- アメリカ合衆国: アラスカ州、ニューヨーク州
- ロシア: コラ半島
- ノルウェー
- スウェーデン
- グリーンランド
- ブラジル
- インド
- オーストラリア
特に、カナダのケベック州やロシアのコラ半島からは、美しい結晶や標本が産出することで知られています。
鑑別
アノーソクレースの鑑別には、以下の点が重要となります。
- 色と光沢: 無色、白色、灰色などが一般的で、ガラス光沢を呈します。
- 劈開: ほぼ直角(約86度)に2方向に劈開します。
- 硬度: モース硬度6~6.5です。
- 産状: ナトリウムに富む火山岩や深成岩中に産出することが多いです。
- 偏光顕微鏡観察: 結晶構造や鉱物学的特徴を詳細に調べる場合に有効です。特に、長石の固溶体 series における位置づけや、構造の無秩序性を確認するのに役立ちます。
他の長石鉱物(アルバイト、オルソクレース、マイクロクリンなど)との鑑別は、Na と K の比率や結晶構造の違いに注目して行われます。
その他
宝石としての利用
アノーソクレースは、その美しい外観から、宝石としても利用されることがあります。特に、透明度が高く、内包物の少ないものは、カットされて宝飾品に加工されることがあります。
しかし、長石グループの中では、アルマダイト(タンザナイト)やムーンストーン(長石の虹色光沢を持つもの)ほど一般的に宝石として知られているわけではありません。
鉱物標本
アノーソクレースの標本は、コレクターの間で人気があります。特に、鮮やかな色合いのものや、良好な結晶形を示すものは、価値が高いとされています。
学術的な研究においても、アノーソクレースの構造や組成は、地球の地質学的プロセスを理解する上で重要な情報を提供します。
関連鉱物
アノーソクレースは、長石グループの鉱物であり、以下の鉱物と密接に関連しています。
- アルバイト (Albite): NaAlSi3O8。ナトリウム長石の純粋な端成分。
- オルソクレース (Orthoclase): KAlSi3O8。カリウム長石の単斜晶系。
- マイクロクリン (Microcline): KAlSi3O8。カリウム長石の三斜晶系。
- サンディン (Sanidine): KAlSi3O8。カリウム長石の高温相(単斜晶系、無秩序構造)。
- アノーサイト (Anorthite): CaAl2Si2O8。カルシウム長石の純粋な端成分。
これらの長石鉱物は、Na-K-Ca の固溶体 series を形成しており、アノーソクレースはその Na 優位の領域に位置します。
まとめ
アノーソクレースは、ナトリウム長石とカリウム長石の固溶体 series において、ナトリウム成分が優位な無秩序構造を持つ三斜晶系の長石鉱物です。主にナトリウムに富む火山岩や深成岩中に産出し、無色、白色、灰色などの色調を呈します。硬度は6~6.5で、ガラス光沢を持ち、ほぼ直角に2方向の劈開があります。宝石としても利用されることがありますが、鉱物標本としての価値も高く、学術的にも地質学的な研究において重要な鉱物です。
