苦土蛭石 (くどひるいし) の詳細・その他
概要
苦土蛭石(くどひるいし、Magnesiohastingsite)は、角閃石グループに属する鉱物であり、緑色を呈することが多いです。化学組成は、Na(Ca2Mg3Fe3+)(AlSi7O22)(OH)2 で表されます。この化学式からわかるように、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウム、ケイ素、酸素、水素 を構成要素としています。特に、マグネシウム と 鉄 が特徴的な成分であり、これらが苦土蛭石の名前の由来にもなっています(苦土はマグネシウムの古い呼び名)。角閃石 の中で、マグネシウム に富む鉄角閃石(Hastingsite)のサブグループに位置づけられています。
鉱物学的特徴
結晶構造
苦土蛭石は、単斜晶系 に属し、柱状 または 針状 の結晶形をとることが一般的です。その構造は、ケイ酸塩鉱物 の中でも 鎖状ケイ酸塩 に分類される 角閃石構造 を持ちます。この構造は、(SiO4) 四面体の連鎖が特徴であり、その間に陽イオンが配置されることで安定しています。苦土蛭石の場合、(AlSi7O22)(OH)2 という基盤構造の中に、Na+, Ca22+, Mg32+, Fe3+ などの陽イオンが特定の位置に配置されます。
色
苦土蛭石の色は、一般的に緑色から暗緑色を呈します。この色は、主に結晶格子中に含まれる鉄イオン(特に三価の鉄イオン、Fe3+)の存在に起因します。鉄の量や価数、そして周囲の配位環境によって、色の濃淡や色調が変化します。まれに、黒色や褐色を呈することもあります。
光沢・透明度
光沢は、ガラス光沢を呈することが多いですが、風化が進んだものや、集合体になると土状光沢を示すこともあります。透明度は、透明から半透明、あるいは不透明と幅があります。結晶のサイズや純度、内包物の有無などによって左右されます。
劈開
苦土蛭石は、角閃石の一般的な特徴として、{110}面に沿って二方向に約56度と124度の角度で劈開します。この劈開は、結晶が割れる際の平面的な傾向を示すもので、角閃石グループの鉱物を識別する上での重要な特徴の一つです。
硬度・比重
モース硬度はおおよそ5.5~6程度であり、石英(硬度7)よりはやや軟らかいですが、一般的な鉱物の中では比較的硬い部類に入ります。
比重は、3.2~3.4程度であり、これは鉱物の密度を示す値です。含まれる元素の種類や量によって変動しますが、鉄やカルシウムなどの重い元素を含むため、比較的重い鉱物と言えます。
産状と分布
生成環境
苦土蛭石は、主に変成岩中に生成します。特に、中~高圧、中~高温の広域変成作用を受けた泥質岩や玄武岩などの火成岩から産出することが知られています。また、接触変成作用を受けた岩石中や、ペグマタイト、熱水鉱床などでも見られることがあります。
マグマの固結過程で生成する火成岩中にも、二次鉱物として生成する場合があります。
産出場所
世界各地の変成岩地帯で産出が報告されています。代表的な産地としては、カナダ(オンタリオ州、ケベック州)、アメリカ合衆国(ニューヨーク州、コネチカット州)、フィンランド、スウェーデン、ノルウェー、イタリア、日本などが挙げられます。日本では、緑色片岩や角閃岩などから発見されることがあります。
類似鉱物との識別
鉄角閃石 (Hastingsite)
苦土蛭石は、鉄角閃石(Hastingsite)のサブグループに位置づけられており、化学組成の類似性が高いです。両者の違いは、マグネシウムと鉄の比率です。苦土蛭石は、鉄角閃石の中でも特にマグネシウムに富むグループですが、厳密な定義においては、マグネシウムと鉄の原子比率によって区別されます。
その他の角閃石類
角閃石グループには、緑閃石(Actinolite)、透閃石(Tremolite)、黒雲母(Biotite)など、多くの鉱物が含まれます。これらの鉱物とは、化学組成、結晶系、硬度、色、劈開などの特徴が異なります。
特に、緑閃石や透閃石は、カルシウム、マグネシウム、鉄を主成分とするカルシウム角閃石に分類されますが、苦土蛭石はナトリウムも含むナトリウム・カルシウム角閃石に分類される点で異なります。
黒雲母は雲母グループに属し、単斜晶系である点は共通しますが、層状ケイ酸塩構造を持ち、薄片状に剥がれやすい劈開を示す点で、柱状の苦土蛭石とは大きく異なります。
その他
名称の由来
「苦土蛭石」という名称は、その化学組成に由来しています。「苦土」はマグネシウムの古い呼び名であり、「蛭石」は蛭石(Vermiculite)とは異なる角閃石グループの鉱物であることを示唆しています。正確には、鉄とマグネシウムの含有量に注目した名称と言えます。
利用・用途
苦土蛭石は、その美しい緑色から、装飾品や宝石としての利用は一般的ではありません。主に、地質学的な研究対象として、岩石の変成作用の履歴や岩石生成の条件を解明するための指標鉱物として重要視されています。
また、鉱物標本として収集されることもあります。
研究上の意義
苦土蛭石は、角閃石グループの中でも複雑な化学組成を持つ鉱物の一つであり、その化学組成と結晶構造の関係、温度や圧力条件下での安定性などが、鉱物学や地球化学の分野で盛んに研究されています。特に、変成岩の形成過程を理解する上で、苦土蛭石の存在やその化学組成は貴重な情報源となります。
まとめ
苦土蛭石は、緑色を呈する角閃石グループに属する鉱物です。その特徴的な化学組成(Na(Ca2Mg3Fe3+)(AlSi7O22)(OH)2)は、マグネシウムと鉄の含有量に特徴があり、変成岩中に多く産出します。硬度や比重、劈開などの鉱物学的特徴は、他の角閃石類との識別において重要です。直接的な工業的用途は少ないものの、地質学的な研究において指標鉱物としての学術的価値は非常に高いと言えます。
