天然石

鉄雲母

鉄雲母(てつうんも)の詳細・その他

概要

鉄雲母(てつうんも、Siderophyllite)は、雲母グループに属するケイ酸塩鉱物です。化学組成は K2(Fe2+2Al)(Al3Si5)O20(OH)4 で、鉄(Fe2+)を多く含みます。雲母特有の層状構造を持ち、劈開性に優れ、薄く剥がれやすい性質があります。この鉄分に由来する、黒色から黒褐色、赤褐色などの暗い色合いが特徴です。

鉱物学的特徴

化学組成

鉄雲母の化学組成は、カリウム(K)、鉄(Fe2+)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、酸素(O)、水酸基(OH)から構成されます。その組成式は K2(Fe2+2Al)(Al3Si5)O20(OH)4 と表されます。この式からもわかるように、雲母グループの中でも特に鉄(Fe2+)の含有量が多いことが、その名称の由来となっています。「Sidero-」はギリシャ語で「鉄」を意味し、「phyll-」は「葉」を意味し、雲母の葉状の劈開性を表しています。

結晶構造

鉄雲母は、雲母グループの鉱物が共通して持つ層状構造をとります。この構造は、ケイ酸塩四面体(SiO4)がシート状に結合し、そのシートがアルミニウム(Al)などの金属イオンを介して積み重なったものです。鉄雲母の場合、この層構造の中に二価の鉄イオン(Fe2+)が組み込まれています。この層状構造により、容易に薄い葉片状に剥がれる(劈開性)という雲母特有の性質が発現します。

物理的性質

  • :黒色、黒褐色、赤褐色など、一般的に暗色系です。鉄分の量や酸化状態によって変化します。
  • 光沢:ガラス光沢から金属光沢を呈します。
  • 硬度:モース硬度で2.5~3程度であり、比較的柔らかい鉱物です。爪でも傷をつけることができます。
  • 比重:2.8~3.2程度です。鉄分を多く含むため、同サイズの他の雲母鉱物と比較してやや重い傾向があります。
  • 劈開:極めて完全で、薄く剥がれやすい性質があります。
  • 条痕:淡黄色から黒褐色です。

産出地と生成環境

産出地域

鉄雲母は、世界各地の花崗岩質ペグマタイト、片岩、片麻岩などの変成岩や、火成岩中に見られます。特に、リチウムやタングステンなどの鉱床に伴って産出することがあります。代表的な産地としては、カナダ、アメリカ(メイン州、サウスダコタ州など)、スウェーデン、フィンランド、ロシア、ブラジル、日本(岩手県、長野県など)などが挙げられます。

生成条件

鉄雲母は、一般的に中~高圧、中~高温の条件下で生成されると考えられています。ペグマタイト脈中では、マグマの最後期に、カリウム、アルミニウム、鉄、ケイ素などが豊富な熱水溶液から結晶化します。変成岩中では、既存の岩石が熱や圧力によって再結晶する際に生成されます。鉄分を多く含む岩石が変成作用を受ける場合に、鉄雲母が形成されることが多いです。

関連鉱物と識別

関連鉱物

鉄雲母は、他の雲母グループの鉱物と類似した構造を持つため、しばしば共産します。代表的なものとしては、以下の鉱物が挙げられます。

  • 黒雲母 (Biotite):鉄雲母と非常に似ていますが、黒雲母はマグネシウム(Mg)の含有量が多く、鉄の割合は相対的に少なくなります。
  • リチア雲母 (Lithium micas):スポジュメンやリチア雲母など、リチウムを多く含む雲母鉱物と共産することがあります。
  • 白雲母 (Muscovite):白雲母はアルミニウムを多く含み、鉄分が少ないため、色調は淡色または無色透明です。

識別上の注意点

鉄雲母を他の黒色系の雲母鉱物、特に黒雲母と区別するには、化学分析やX線回折などが確実な方法ですが、肉眼やルーペでの観察である程度の識別が可能です。鉄雲母は黒雲母よりも鉄分に由来する特有の赤褐色を帯びることがあり、また、鉄分に起因する比重の高さを注意深く比較することで、識別の一助となることがあります。しかし、両者の連続的な固溶体が存在するため、明確な区別が難しい場合も少なくありません。

用途と利用

現状、鉄雲母そのものが直接的に産業的に広く利用されている例は多くありません。しかし、その特性から、以下のような潜在的な利用が考えられています。

  • 顔料や塗料:鉄雲母の持つ暗い色調は、顔料としての可能性を示唆します。ただし、安定性や着色力などの点で、他の顔料に比べて優位性があるかは検討が必要です。
  • 機能性材料:雲母の層状構造は、特定の物質を吸着・封入する能力を持つため、触媒担体や吸着材としての応用が研究される可能性があります。鉄分を含むことで、磁気的な特性が付与される可能性も考えられます。
  • 鉱物標本:美しい結晶形や色合いを持つ鉄雲母は、鉱物コレクターにとって魅力的な標本となります。

まとめ

鉄雲母は、鉄分を豊富に含んだ特徴的な黒色から赤褐色の雲母鉱物です。その層状構造に由来する劈開性や、変成岩・火成岩中に産出する性質は、鉱物学的に興味深い対象です。黒雲母との区別はしばしば困難ですが、鉄分に由来する色調や比重の違いが識別点となります。現在のところ、直接的な産業利用は限定的ですが、その独特な構造と組成から、将来的な機能性材料としての応用が期待される鉱物の一つと言えるでしょう。鉱物標本としても、その特徴的な外観から収集家には人気があります。