天然石

苦土普通角閃石

苦土普通角閃石:詳細とその他

苦土普通角閃石とは

苦土普通角閃石(くどふつうかくせんせき、Magnesio-hornblende)は、広範な普通角閃石グループに属する鉱物であり、その化学組成と構造において特徴づけられます。普通角閃石は、ケイ酸塩鉱物の中でも両輝石グループに次いで地殻中に豊富に存在する鉱物の一つです。苦土普通角閃石は、その名の通り、マグネシウム(Mg)を比較的多く含み、鉄(Fe)とマグネシウムの固溶系列において、マグネシウムに富む端成分に近い位置を占めます。

鉱物学的な分類では、単斜晶系に属し、針状、柱状、または不規則な粒状の結晶として産出します。その化学式は、(Ca, Na)2(Mg, Fe2+, Fe3+, Al)5(Si, Al)8O22(OH, F)2と表されますが、苦土普通角閃石は特にMgがFe2+よりも優位な場合に特定されます。

化学組成と構造

苦土普通角閃石の化学組成は、普通角閃石グループの一般的な特性を共有していますが、マグネシウムと鉄の比率がその識別における鍵となります。一般的に、苦土普通角閃石はMg/(Mg+Fe2+)比が0.50以上に相当する組成を持つと定義されます。

角閃石グループの結晶構造は、(Si8O22)8-という基本単位からなる二連鎖構造(ダブルチェーン構造)を持っています。この構造は、[A][B]2[C]5[T]8O22[X]2という一般式で表され、AサイトにはCaやNa、BサイトにはMg、Fe2+、Fe3+、Al、Mn、Ti、CサイトにはMg、Fe2+、Fe3+、Al、Mn、Ti、TサイトにはSi、Al、そしてXサイトには(OH)やFが含まれます。

サイト占有

  • Aサイト:主にCa2+が占めますが、Na+も部分的に置換します。
  • Bサイト: Mg2+、Fe2+、Fe3+、Al3+が占有します。苦土普通角閃石では、Mg2+が支配的です。
  • Cサイト: Bサイトと同様の陽イオンが占有します。
  • Tサイト: 主にSi4+ですが、Al3+も置換します。
  • Xサイト: OHが主で、Fが部分的に置換します。

苦土普通角閃石においては、BサイトにおけるMg2+の占有率が高いことが特徴です。これにより、鉄に富む普通角閃石と比較して、より明るい色調を持つ傾向があります。

物理的・化学的性質

苦土普通角閃石は、その物理的・化学的性質においても、普通角閃石グループの一般的な範囲内に収まります。

苦土普通角閃石の典型的色は、淡緑色から緑色、あるいは黄緑色です。鉄の含有量が増加するにつれて、色が濃くなり、暗緑色から黒色へと変化します。苦土普通角閃石は、鉄の含有量が比較的少ないため、より明るい色調を示すことが多いです。

光沢

ガラス光沢を呈します。

条痕

白色から灰白色です。

硬度

モース硬度で5.5~6.5程度です。これは、水晶(硬度7)よりはやや柔らかく、長石(硬度6)と同程度かやや硬いことを示します。

比重

3.0~3.4程度です。鉄の含有量が増加すると比重は高くなる傾向があります。

劈開

(110)面に沿って、約56°および124°の角度で劈開します。これは角閃石グループに特徴的な劈開角です。

条線

結晶面にはしばしば条線が見られます。

断口

不平坦状または亜貝殻状を示します。

光学的性質

  • 結晶系: 単斜晶系
  • 複屈折率: 0.16~0.19程度
  • 光学的性質: 二軸性、負の光学
  • 吸光度: 結晶軸Zに平行な光が最も強く吸収され、X軸に平行な光が最も弱く吸収されます。

産状と共生鉱物

苦土普通角閃石は、主に火成岩および変成岩中に産出します。その形成条件は、マグマの組成、温度、圧力、および揮発性成分の存在に依存します。

火成岩

苦土普通角閃石は、花崗岩、閃緑岩、安山岩、玄武岩などの深成岩や火山岩の構成鉱物として見られます。特に、マグネシウムやカルシウムが比較的豊富なマグマから生成しやすい傾向があります。

変成岩

角閃岩相やグラニュライト相の変成岩において、主要な鉱物の一つとして産出します。例えば、泥岩や玄武岩が変成作用を受けた場合に生成されます。

共生鉱物

苦土普通角閃石は、しばしば以下のような鉱物と共生します。

  • 斜長石: 火成岩や変成岩で普遍的に共生します。
  • 石英: 酸性火成岩や変成岩で共生します。
  • 雲母類(黒雲母、白雲母): 火成岩や変成岩で共生します。
  • 輝石類(普通輝石、紫蘇輝石): 共生する場合と、苦土普通角閃石が輝石に交代して生成する場合もあります。
  • 磁鉄鉱、チタン鉄鉱: 鉄・チタン酸化物と共生します。
  • 石榴石: 高圧・高温条件下で生成された変成岩で共生することがあります。

苦土普通角閃石の識別

苦土普通角閃石を他の角閃石グループの鉱物や類似鉱物と区別するには、以下の点を総合的に考慮する必要があります。

  • 色: 淡緑色~緑色、黄緑色であること。
  • 結晶形: 針状、柱状、または粒状。
  • 劈開: (110)に沿って約56°と124°の劈開。
  • 硬度: 5.5~6.5。
  • 光学顕微鏡下での観察: 偏光顕微鏡下での多色性、消光角、複屈折率などを観察。
  • 化学分析: X線マイクロアナライザー(EPMA)やX線回折(XRD)による組成分析。

特に、普通角閃石グループ内では、マグネシウムと鉄の比率を分析することが、苦土普通角閃石を特定する上で重要となります。

用途と重要性

苦土普通角閃石自体が直接的に工業的に利用されることは稀ですが、地質学的な観点から非常に重要な鉱物です。

地質学的な指標

苦土普通角閃石の存在やその化学組成は、岩石の成因、生成された温度・圧力条件、およびマグマの進化過程を知るための貴重な情報源となります。例えば、変成岩における苦土普通角閃石の出現は、角閃岩相への到達を示唆します。

岩石の構成鉱物

広範な岩石の構成鉱物であるため、岩石の物理的・化学的性質に影響を与えます。例えば、風化作用への抵抗性や、岩石の強度などに関わります。

鉱床学

特定の鉱床の形成過程を理解する上で、共生鉱物としての苦土普通角閃石が手がかりとなることがあります。

その他

苦土普通角閃石という名称は、その組成におけるマグネシウム(苦土)と、普通角閃石グループに属することを示しています。普通角閃石グループは、化学組成の連続性が高く、非常に多様なメンバーを含んでいます。苦土普通角閃石は、このグループの中でもマグネシウムに富む端成分の一つとして位置づけられます。

また、角閃石グループの鉱物は、地球の内部活動やプレートテクトニクスを理解する上でも重要な役割を果たしています。苦土普通角閃石も、そのような地球科学的な研究において、その存在意義を発揮しています。

まとめ

苦土普通角閃石は、普通角閃石グループに属するケイ酸塩鉱物であり、マグネシウムを比較的多く含むことを特徴とします。単斜晶系に属し、淡緑色から緑色、黄緑色を呈し、ガラス光沢を持ちます。劈開は(110)に沿って特徴的な角度を示し、硬度は5.5~6.5です。火成岩および変成岩中に広く産出し、斜長石、石英、輝石類などと共生します。その化学組成と産状は、岩石の成因や生成条件を知る上で重要な地質学的指標となります。直接的な工業用途は限られていますが、地球科学研究におけるその重要性は高いと言えます。