斜方角閃石(しゃほうかくせんせき)
概要
斜方角閃石は、ケイ酸塩鉱物の一種であり、単斜角閃石(せんせき)とともに角閃石グループを代表する鉱物です。化学組成としては、マグネシウムや鉄、アルミニウム、カリウム、ナトリウムなどを含む複雑な構造を持ち、一般式は Ca₂(Mg,Fe)₅Si₈O₂₂(OH)₂ で表されます。しかし、この式はあくまで代表的なもので、実際にはこの組成にはかなりの幅があります。特に、マグネシウム(Mg)と鉄(Fe)の比率によって、色調が大きく変化することが特徴です。マグネシウムに富むものは緑色を呈し、鉄に富むものは黒色に近い緑色や黒色になります。また、アルミニウム(Al)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)などの置換も頻繁に起こり、多様な変種が存在します。
結晶構造としては、斜方晶系に属し、柱状または針状の結晶を形成することが多いです。劈開(へきかい)は、{110}面に沿って約120度と60度の角度で完全な劈開を示します。この特徴的な劈開は、単斜角閃石の約90度の劈開とは明確な区別点となります。
硬度はモース硬度で5~6、比重は3.0~3.5程度と、比較的標準的な鉱物といえます。光沢はガラス光沢または亜金属光沢を示します。条痕は白色から淡緑色です。
産状と生成環境
斜方角閃石は、主に火成岩や変成岩の構成鉱物として産出します。特に、花崗岩、閃長岩、玄武岩、安山岩などの深成岩や火山岩に、石英、長石、黒雲母などと共生して見られます。これらの岩石がマグマから固結する過程で生成されます。
また、広域変成作用を受けた片岩や片麻岩、角閃岩などの変成岩中にも豊富に産出します。これらの岩石は、地殻深部で高温・高圧にさらされることによって形成され、斜方角閃石はそのような環境下で安定して生成される鉱物です。
接触変成作用によって生成されるスカルン鉱物としても見られることがあります。さらに、砂岩や礫岩などの堆積岩中では、風化・再堆積した二次鉱物として発見されることもあります。
生成環境としては、比較的酸化的な条件下で形成されやすい傾向がありますが、マグネシウムや鉄の量、そして他の元素の置換によって、より幅広い環境で生成されます。高温・高圧の環境を好むため、地球深部での活動とも関連が深い鉱物と言えます。
特徴と識別
斜方角閃石を識別する上で最も重要な特徴は、その結晶形と劈開です。柱状または針状の結晶が多く、断面は六角形に近い形をしていることがあります。そして、前述の通り、{110}面に沿って約120度と60度の角度で交わる特徴的な劈開は、単斜角閃石との鑑別において決定的な要素となります。ルーペなどで観察すると、この劈開面がはっきりと確認できることが多いです。
色調は、マグネシウムと鉄の比率によって大きく変化します。マグネシウムに富むものは、鮮やかな緑色を呈し、これは「緑色角閃石」とも呼ばれます。一方、鉄に富むものは、暗緑色、黒緑色、あるいは黒色になり、「黒色角閃石」や「鉄角閃石」などと呼ばれることもあります。この色調の違いは、岩石の見た目を大きく左右するため、地質学的な区分にも役立ちます。
劈開面における光の反射(閃光)も観察されることがあり、これも識別の一助となります。また、鉱物標本においては、結晶の先端が鈍く尖った形状を示すこともあります。
識別が難しい場合、X線回折や化学分析などの精密な分析が必要となることもありますが、現場での識別においては、結晶形、劈開、色調が主な手がかりとなります。
鉱物学的な分類と関連鉱物
斜方角閃石は、ケイ酸塩鉱物のイノケイ酸塩(鎖状ケイ酸塩)に属する角閃石グループの中の斜方晶系に属する鉱物です。
角閃石グループは非常に多様であり、斜方角閃石と単斜角閃石が最も一般的ですが、他にも多くの変種が存在します。斜方角閃石の化学組成におけるMgとFeの置換は、鉄斜方角閃石(Feに富む)や苦土斜方角閃石(Mgに富む)といった名前で区別されることがあります。また、アルミニウムやナトリウム、カリウムなどの置換も大きく、アルミニウム角閃石、tschermakite、pargasite、edeniteなど、それぞれの置換元素や量によって細かく分類されています。
斜方角閃石は、しばしば黒雲母、輝石(特に普通輝石)、かんらん石、石英、長石(斜長石やカリ長石)、ざくろ石などと共生します。これらの鉱物との共生関係は、その岩石がどのような地質学的条件下で形成されたかを知る手がかりとなります。
例えば、輝石グループの鉱物(輝石)は、斜方角閃石よりも高温で生成される傾向があるため、斜方角閃石が輝石を交代して生成されたり、あるいは輝石が変質して斜方角閃石になったりする現象が見られます。これは、地球内部の温度や圧力の変化を示す指標となります。
利用と意義
斜方角閃石自体が、直接的に産業的な利用価値が高い鉱物というわけではありません。しかし、その産出状況や岩石中の存在量、そして岩石の性質を理解する上で、非常に重要な指標となります。
地質学的な指標として
斜方角閃石は、火成岩や変成岩の主要な構成鉱物の一つとして、岩石の成因や生成環境を理解するための鍵となります。例えば、玄武岩や安山岩中に斜方角閃石が見られる場合、それは比較的低温・低圧でマグマが固結したことを示唆します。一方、変成岩中に大量の斜方角閃石が見られる場合、それは広域変成作用によって高温・高圧下で生成されたことを意味します。
また、斜方角閃石の化学組成を分析することで、マグマの組成や変成作用の温度・圧力条件、そして岩石の変質過程などを詳細に推定することが可能になります。これは、地球の内部構造やプレートテクトニクス、火山活動などの研究において不可欠な情報を提供します。
鉱物標本として
美しい緑色や黒色を呈する斜方角閃石の結晶は、鉱物標本としても魅力的です。特に、鮮やかな緑色のものは、コレクターの間で人気があります。世界各地の鉱床から、様々な形状やサイズの結晶が産出されており、学術的な研究だけでなく、愛好家によって収集されています。
その他の可能性
現時点では限定的ですが、将来的には、その化学組成の多様性や物理的特性を活かした応用が研究される可能性も考えられます。例えば、特定の元素を吸着する性質や、触媒としての機能などが注目されるかもしれません。
まとめ
斜方角閃石は、ケイ酸塩鉱物の一種であり、火成岩や変成岩の主要な構成鉱物です。その特徴的な斜方晶系の結晶構造、約120度と60度の劈開、そしてマグネシウムと鉄の比率によって変化する緑色から黒色の色調は、他の鉱物と識別する上で重要な手がかりとなります。
生成環境は比較的酸化的な高温・高圧の条件を好む傾向があり、地球内部の活動と深く関連しています。地質学的には、岩石の成因や生成環境を推定するための重要な指標として、また、鉱物学的には角閃石グループの多様性を示す代表的な鉱物として、その存在は非常に意義深いです。
直接的な産業利用は限定的ですが、その学術的な重要性は非常に高く、地質学の研究や鉱物標本としての価値も兼ね備えています。斜方角閃石を理解することは、地球の歴史とダイナミズムを解き明かす一助となるでしょう。
