天然石

パイロクスマンガン石

パイロクスマンガン石:詳細・その他

概要

パイロクスマンガン石(パイロクスマンガンせき、Pyroxmangite)は、ケイ酸塩鉱物の一種であり、特にマンガンに富む輝石グループの鉱物です。その名称は、マンガン(Mn)を多く含むこと、そして輝石(Pyroxene)に似た構造を持つことに由来しています。

化学組成と構造

パイロクスマンガン石の化学組成は、一般的に (Mn,Fe,Mg,Ca)2Si2O6 と表されます。これは、マンガン(Mn)が主成分ですが、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)などの陽イオンも一部置換していることを示しています。その構造は、単斜輝石(Monoclinic pyroxene)と類似した、SiO4 四面体が鎖状に連結した構造を持っています。この鎖状構造が、鉱物の結晶構造の基本的な骨格を形成しています。

物理的・化学的性質

  • 色: パイロクスマンガン石の色は、マンガンの含有量によって幅広く変化します。一般的には、淡紅色から濃赤色紫色褐色黒色などが見られます。マンガンイオンの価数や配置によって、吸収スペクトルが変化し、多様な色調が生じます。
  • 光沢: ガラス光沢から亜金属光沢を示します。
  • 透明度: 透明から半透明、あるいは不透明なものまであります。
  • 結晶系: 単斜晶系(Monoclinic)。
  • 結晶形状: 柱状、針状、粒状、板状など、様々な形状で産出します。しばしば、他のマンガン鉱物と共生して塊状を呈することもあります。
  • 劈開: 輝石類に共通する{110}に約87度と93度の角度で交わる2方向に完全な劈開を持ちます。
  • 硬度: モース硬度では5.5~6.5程度です。
  • 比重: 3.5~4.0程度です。マンガンの置換量によって変動します。
  • 条痕: 白色から淡紅色

産出地と共生鉱物

パイロクスマンガン石は、主にマンガン鉱床鉄マンガン団塊(海底に沈殿して生成するマンガンと鉄を主成分とする球状または不規則な塊)などに産出します。以下に代表的な産出地と、しばしば共生する鉱物を挙げます。

代表的な産出地

  • 日本: 岩手県(久慈)、静岡県(土肥)、三重県(鳥羽)、岡山県(阿哲石)、香川県(豊島)など、多くの地域で産出が報告されています。特に、日本のマンガン鉱床からは、美しい標本が得られることがあります。
  • その他: スウェーデンアメリカ合衆国メキシコ南アフリカオーストラリアなど、世界各地のマンガン鉱床から産出します。

共生鉱物

パイロクスマンガン石は、しばしば他のマンガン鉱物と共生します。代表的な共生鉱物としては、以下のようなものが挙げられます。

  • ロードクロサイト(菱マンガン鉱)
  • ロードナイト(薔薇輝石)
  • テフロ石(Tephroite)
  • ケロフェン石(Kutnahorite)
  • キンバライト(Kyanite)
  • 石英(Quartz)
  • 方解石(Calcite)
  • 磁鉄鉱(Magnetite)
  • 珪マンガン鉱(Rhodonite):パイロクスマンガン石とロードナイトは、化学組成や構造が類似しており、しばしば密接な関係を持っています。

鉱物学的・地質学的な意義

パイロクスマンガン石は、マンガン鉱床の生成過程や、その地質環境を理解するための重要な指標鉱物となります。マンガンに富む堆積環境や、熱水変質作用を受けた岩石などにおいて、その存在が確認されます。

また、マンガンは、人体にとっても微量ながら必須のミネラルであり、生体内の酵素の活性化などに関与しています。しかし、鉱物としてのパイロクスマンガン石が直接的に人体に利用されることは稀であり、主に学術的な研究対象や、コレクターズアイテムとしての価値が中心となります。

用途

パイロクスマンガン石は、その美しさから装飾品宝飾品の素材として一部利用されることがあります。特に、鮮やかな赤色や紫色を呈するものは、カボションカットなどに加工され、ペンダントや指輪の石として用いられることがあります。ただし、その硬度や劈開の特性から、非常に繊細な加工が必要となります。

また、マンガンは鉄鋼の合金元素として重要な役割を果たしており、鉄鋼の強度や耐久性を向上させるために不可欠な元素です。しかし、パイロクスマンガン石そのものが直接的な工業原料として大量に採掘・利用されることは少なく、より経済的に採掘可能なマンガン鉱石(例えば、菱マンガン鉱など)が主たる供給源となります。

学術的な観点からは、パイロクスマンガン石の結晶構造や化学組成の研究は、ケイ酸塩鉱物の成因や、地球内部における元素の挙動を理解する上で貴重な情報を提供します。

識別上の注意点

パイロクスマンガン石は、他のマンガン鉱物、特にロードナイト(薔薇輝石)ロードクロサイト(菱マンガン鉱)と外観が似ているため、識別には注意が必要です。これらの鉱物は、いずれもマンガンを主成分とする鉱物であり、しばしば共生します。

  • ロードナイトは、一般的にピンク色で、白や黒の脈状のインクルージョン(内包物)が見られることが多いですが、パイロクスマンガン石にも類似した色調やインクルージョンの見られるものがあります。劈開の角度や結晶構造の違いが、より詳細な識別には重要となります。
  • ロードクロサイトは、しばしば層状構造や集合体を形成し、より淡いピンク色やオレンジ色を呈することが多いですが、これもパイロクスマンガン石と混同されることがあります。

正確な識別には、劈開、結晶形状、比重、あるいはX線回折などの分析手法が用いられます。

まとめ

パイロクスマンガン石は、マンガンに富む輝石グループのケイ酸塩鉱物であり、その多様な色調と美しい光沢から、鉱物コレクターや愛好家の間で珍重されています。主にマンガン鉱床から産出し、ロードクロサイトやロードナイトといった他のマンガン鉱物と共生することが多いです。装飾品としての利用も一部見られますが、その学術的な価値も高く、地球科学の研究においても重要な鉱物の一つと言えます。