ピジョン輝石:詳細・その他
ピジョン輝石(Pigeonite)は、輝石グループに属する斜方晶系のケイ酸塩鉱物です。その特徴的な名称は、発見された当初、ピジョン(pigeon)という地名に由来すると考えられていましたが、現在ではその由来は定かではありません。しかし、その独特の化学組成と結晶構造、そして多様な産状から、地質学、特に岩石学において重要な鉱物の一つとされています。
化学組成と結晶構造
ピジョン輝石の化学組成は、一般的に(Ca,Mg,Fe)2Si2O6と表されます。これは、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)といった陽イオンと、ケイ素(Si)、酸素(O)からなるケイ酸塩であることを示しています。輝石グループは、一般的に単斜晶系のディオプサイド(Diopside)やヘデン輝石(Hedenbergite)、斜方晶系のエンスタタイト(Enstatite)やフェロシライト(Ferrosilite)など、多様な固溶体関係を持つ鉱物の集合体です。
ピジョン輝石は、この輝石グループの中でも特に、単斜輝石と斜方輝石の固溶体中間体として位置づけられることが多い鉱物です。具体的には、エンスタタイト(MgSiO3)とディオプサイド(CaMgSi2O6)の固溶体系列における、高圧下で生成する相として特徴づけられます。温度・圧力条件によって、輝石グループ内の各成分の比率が変化し、ピジョン輝石が形成されます。
結晶構造としては、斜方晶系に属し、空間群はPbcaです。その構造は、SiO4四面体が鎖状に連なった単鎖構造を基本とし、その鎖の間にM1サイト(Mg,Fe)とM2サイト(Ca,Mg,Fe)といった陽イオンが配置されています。ピジョン輝石の場合、M2サイトにCaが占める割合が比較的少なく、MgやFeが多くを占める傾向があります。この陽イオンの配置と比率が、ピジョン輝石の物理的・化学的性質に影響を与えています。
物理的・化学的性質
ピジョン輝石の色は、その組成中の鉄の量によって変化し、暗緑色から黒色、時には褐色を呈することがあります。これは、鉄イオンが可視光の特定の波長を吸収するためです。条痕(鉱物を硬い平面にこすりつけたときの粉末の色)は、一般的に緑灰色から黒色です。
光沢はガラス光沢ですが、変質している場合は亜金属光沢を示すこともあります。透明度は、半透明から不透明であることが多いです。
劈開は、輝石グループに共通する特徴として、{110}面に沿って2方向に、約87度と93度の角度で交わる格子状の劈開を持っています。この角度は、単斜輝石の約90度とは異なり、ピジョン輝石の斜方晶系の結晶構造を反映したものです。
モース硬度はおよそ6であり、比較的硬い鉱物と言えます。
比重は、組成によって異なりますが、一般的に3.3から3.5程度です。鉄を多く含むほど比重は大きくなる傾向があります。
化学的には、酸に対しては比較的安定していますが、高温下では溶解しやすくなります。
産状と鉱物学的意義
ピジョン輝石は、主に火成岩、特に玄武岩や安山岩といった塩基性~中間質の岩石中に見られます。これらの岩石は、地球のマントルに由来するマグマが噴出・貫入して形成されるため、ピジョン輝石はマントル由来のマグマの結晶化過程を理解する上で重要な手がかりとなります。
また、変成岩、特に広域変成作用や接触変成作用を受けた岩石中にも産出することがあります。これは、既存の鉱物が、熱や圧力の影響を受けて再結晶する過程でピジョン輝石が形成されることを示唆しています。
ピジョン輝石の鉱物学的意義は、その高圧環境での安定性にあります。地球内部、特にマントル遷移帯といった高圧・高温の環境では、単斜輝石よりもピジョン輝石が安定して存在することが知られています。そのため、地球内部の構造や物質循環を理解するための指標鉱物として注目されています。
近年では、隕石中にもピジョン輝石が発見されており、太陽系初期の天体の形成過程を研究する上でも貴重な情報源となっています。
同定と分析
ピジョン輝石の同定は、肉眼観察、偏光顕微鏡観察、そしてX線回折(XRD)、電子線マイクロアナライザー(EPMA)、ラマン分光法といった分析手法を用いて行われます。
偏光顕微鏡下では、その複屈折色、消光角、鉱物連晶といった特徴的な光学特性から識別されます。特に、輝石グループにおける単斜輝石との区別には、消光角や劈開角が重要な指標となります。
X線回折(XRD)は、鉱物の結晶構造を決定する上で最も信頼性の高い手法の一つです。ピジョン輝石の結晶構造と格子定数は、XRDパターンから精密に決定することができます。
電子線マイクロアナライザー(EPMA)は、鉱物中の元素組成を非破壊で分析する手法です。ピジョン輝石のCa, Mg, Feといった陽イオンの組成比を詳細に分析することで、その生成条件を推定することが可能になります。
ラマン分光法は、鉱物の分子振動を測定することで、その化学結合や構造に関する情報を得ることができます。ピジョン輝石のSi-O結合やM-O結合の振動スペクトルを分析することで、他の輝石類との違いを明らかにすることができます。
その他・関連情報
ピジョン輝石は、その生成条件の特殊性から、地球内部のダイナミクスを理解する上で重要な役割を果たします。例えば、プレートテクトニクスやマントル対流といった、地球の内部構造や地殻変動を理解するためのモデルを構築する際に、ピジョン輝石の存在やその組成が考慮されます。
また、鉱物資源との関連では、ピジョン輝石自体が直接的な鉱物資源となることは稀ですが、それが産出する岩石(例えば玄武岩)は、建設資材やセメント原料として利用されることがあります。
ピジョン輝石は、その多様な産状と地球科学的意義から、現在も活発な研究対象となっています。今後も、深部地球科学や惑星科学の分野において、その重要性は増していくと考えられます。
まとめ
ピジョン輝石は、斜方晶系のケイ酸塩鉱物であり、輝石グループに属します。その化学組成は(Ca,Mg,Fe)2Si2O6で、高圧下で生成する単斜輝石と斜方輝石の固溶体中間体です。主な産状は塩基性~中間質火成岩や変成岩であり、地球内部の環境を理解するための指標鉱物として重要視されています。その同定には、偏光顕微鏡観察やX線回折、EPMAなどの分析手法が用いられます。
