翠銅鉱：詳細・その他
鉱物としての翠銅鉱
翠銅鉱（すいどうこう、Azurite）は、化学組成がCu3(CO3)2(OH)2で表される銅の炭酸塩鉱物です。鮮やかな青色を呈し、しばしば孔雀石（マラカイト）と共に産出します。その美しい色合いから、古くから装飾品や顔料として利用されてきました。
化学組成と構造
翠銅鉱の化学組成は、銅、炭酸イオン、水酸化物イオンから成ります。この組成は、孔雀石の化学組成Cu2(CO3)(OH)2とは異なります。翠銅鉱は、銅原子が3つ、炭酸イオンが2つ、水酸化物イオンが2つで構成されており、孔雀石よりも銅の含有量が高いのが特徴です。
結晶構造は単斜晶系に属し、その構造内で銅イオンが八面体配位をとることで、独特の青色を発現しています。この青色は、銅イオンに由来するd-d遷移によるものです。
物理的性質
翠銅鉱の最も顕著な特徴は、その鮮やかな青色です。色は、淡い空色から深い藍色まで幅広く、産地や条件によって変化します。条痕（鉱物を粉末にしたときの粉の色）は淡青色です。
硬度は3.5～4（モース硬度）と比較的柔らかく、へき開は完全です。このへき開性のため、割れやすい性質を持っています。比重は3.77～3.83程度です。
産状と共生鉱物
翠銅鉱は、主に酸化帯や二次鉱床において、銅鉱石の風化や二次的な沈殿作用によって生成されます。しばしば、同じく銅の炭酸塩鉱物である孔雀石（マラカイト）と密接に共生しています。一般的に、翠銅鉱は孔雀石よりも酸性条件下で生成されやすく、孔雀石はよりアルカリ性条件下で生成されやすい傾向があります。そのため、同一の鉱床内でも、生成された環境の違いによって、翠銅鉱と孔雀石の分布が分かれることがあります。
他にも、クリソコラ、アズロパイト、天然銅、方解石、石英など、様々な鉱物と共産することが知られています。
産地
世界各地の銅鉱床から産出しますが、特に有名な産地としては、以下の地域が挙げられます。
* アメリカ合衆国（アリゾナ州、ユタ州、ニューメキシコ州など）
* チリ
* オーストラリア
* フランス
* ナミビア
* コンゴ民主共和国
日本国内でも、北海道、宮城県、兵庫県、岡山県、大分県などで産出が報告されています。
翠銅鉱の用途と歴史
顔料としての利用
翠銅鉱は、その鮮やかな青色から、古くから顔料として利用されてきました。特に、ウルトラマリン（群青）が貴重であった時代には、代替顔料として重宝されました。しかし、翠銅鉱は酸や熱に弱く、容易に分解して孔雀石などに変質してしまうため、その耐久性には限界がありました。そのため、現在では、より安定した合成顔料が主流となっています。
装飾品としての利用
翠銅鉱の美しい青色は、宝飾品や装飾品としても利用されています。しかし、その硬度の低さ（モース硬度3.5～4）とへき開性から、衝撃に弱く、傷つきやすいため、取り扱いには注意が必要です。しばしば、孔雀石と組み合わせられたり、カボションカットやビーズなどに加工されたりします。
歴史的背景
古代エジプトでは、翠銅鉱は「マアフカット」と呼ばれ、化粧品や宝石として用いられていたと考えられています。また、中世ヨーロッパでは、教会などの装飾や絵画の顔料としても利用されました。その神秘的な青色は、しばしば「聖母マリアの青」としても象徴的に扱われました。
翠銅鉱の変質と取り扱い上の注意点
変質
翠銅鉱は、前述したように、酸や湿気、熱に非常に弱いです。
* 酸：塩酸などの酸に触れると、泡を出しながら容易に分解し、孔雀石や塩化銅などに変化します。
* 湿気・水：長期にわたり湿気にさらされると、孔雀石へと変質する可能性があります。
* 熱：加熱すると、分解して酸化銅や水、二酸化炭素を生成します。
この変質しやすい性質のため、鉱物標本として保存する際には、乾燥した環境で、酸性物質や水分を避けて保管する必要があります。
取り扱い上の注意点
* 標本：翠銅鉱の標本は、密閉容器に入れて乾燥剤と共に保管することが望ましいです。
* 宝石：宝飾品として使用する際には、衝撃や摩擦を避け、酸性の洗剤や薬品との接触を避ける必要があります。
* 粉塵：粉末状の翠銅鉱を扱う場合、銅の化合物であるため、誤飲・誤吸入に注意が必要です。
まとめ
翠銅鉱は、その鮮やかな青色で人々を魅了してきた鉱物です。化学的には銅の炭酸塩鉱物であり、孔雀石と密接な関係にあります。古くから顔料や装飾品として利用されてきましたが、その変質しやすい性質から、取り扱いには注意が必要です。鉱物学的な研究対象としてはもちろんのこと、その美しさからコレクターや愛好家にも人気があります。鮮やかな青色は、自然が作り出した芸術作品とも言えるでしょう。
