ハットン石:詳細とその他
ハットン石(Huttonite)は、天然に産出する鉱物であり、そのユニークな化学組成と結晶構造から、鉱物学的に興味深い存在です。本項では、ハットン石の詳細な情報、その発見、産状、物理的・化学的性質、そして関連する鉱物について、網羅的に記述します。
ハットン石の概要
化学組成と結晶構造
ハットン石の化学組成は、Th(SiO₄) で表されます。これは、トリウム(Th)、ケイ素(Si)、酸素(O)から構成されるケイ酸塩鉱物です。特に、トリウム を主要な構成元素として含んでいることが、この鉱物の特徴の一つです。トリウムは放射性元素であり、ハットン石の放射能の由来となります。
結晶構造的には、ハットン石は 単斜晶系 に属します。その結晶構造は、単斜晶系の正方晶系 とは異なり、特定の空間群(C2/c)を持っています。この構造は、ジルコン とは異なる配置をとっており、ケイ酸イオン(SiO₄)がトリウムイオン(Th)と配位結合を形成しています。具体的には、ケイ素原子は4つの酸素原子に囲まれ、四面体を形成しています。これらの四面体は、トリウム原子と結合し、三次元的なネットワーク構造を構築しています。
ハットン石の単位格子(unit cell)の大きさは、おおよそ a = 6.82 Å, b = 6.90 Å, c = 6.46 Å, β = 104.5° です。これらの格子定数は、結晶の育成条件や不純物の影響によって若干変動する可能性があります。
発見と命名
ハットン石は、1950年にスコットランドの マーチン・J・バレル (Martin J. Buerer)によって、スコットランドの オールド・レッド・サンドストーン (Old Red Sandstone)堆積物から発見されました。この鉱物は、イギリスの著名な地質学者であり、鉱物学者でもあった ジェームズ・ハットン (James Hutton、1726-1797)を記念して命名されました。ジェームズ・ハットンは、現代地質学の父とも呼ばれ、地球の歴史が非常に長い期間にわたることを提唱したことで知られています。
ハットン石の産状
産出場所と岩石タイプ
ハットン石は、世界中の様々な場所で産出が報告されていますが、一般的には 砂岩 や 泥岩 といった堆積岩中に、微細な粒状または希に自形結晶として見られます。特に、先述の通り、スコットランドのオールド・レッド・サンドストーン層からの発見が有名です。
また、ハットン石は、花崗岩 や ペグマタイト といった火成岩中にも見られることがあります。これらの火成岩中では、他の希土類元素を含む鉱物と共生している場合が多く、マグマの分化過程や結晶化条件を理解する上で重要な示唆を与えます。
さらに、変成岩 中でもハットン石の産出が確認されています。これは、既存の岩石が熱や圧力によって変成作用を受ける過程で、トリウムが再配列・結晶化してハットン石を形成することを示唆しています。
共生鉱物
ハットン石は、単独で産出することは少なく、しばしば他の鉱物と共生しています。共生する鉱物としては、以下のようなものが挙げられます。
- ジルコン (ZrSiO₄): ハットン石と類似した構造を持つケイ酸塩鉱物であり、しばしば一緒に産出します。ジルコンは、地球年代学において放射性同位体分析に用いられる重要な鉱物でもあります。
- チタン石 (CaTiSi₂O₉): チタンを含むケイ酸塩鉱物で、ハットン石と共産することがあります。
- 希土類元素 を含む鉱物: モナズ石((Ce,La,Nd,Th)PO₄)やバストネサイト((Ce,La,Nd,Y)CO₃F)など、トリウムや希土類元素を多く含む鉱物と共産することがあります。
- 酸化鉱物:magnetite (Fe₃O₄) や hematite (Fe₂O₃) などの鉄の酸化物と共生することもあります。
これらの共生関係は、ハットン石が形成される際の地質学的環境や、トリウムおよびケイ素の供給源を推定する上で役立ちます。
ハットン石の物理的・化学的性質
色、光沢、透明度
ハットン石は、通常、無色 から 淡黄色、茶色 を呈します。しかし、微量の不純物、特に希土類元素やウランなどの影響で、赤褐色 や 緑色 がかることもあります。放射性元素であるトリウムを含んでいるため、その放射能によって結晶構造が破壊され、放射損 を受けることがあり、その結果、色調が変化したり、ガラス状になったりすることもあります。
光沢は ガラス光沢 から 樹脂光沢 で、条痕は 白色 です。
透明度は、透明 から 半透明 で、しばしば放射損により不透明になることもあります。
硬度、比重、劈開
ハットン石のモース硬度は、およそ 4.5〜5 程度であり、比較的脆い鉱物です。これは、結晶構造の弱さや、放射損による結晶構造の乱れに起因すると考えられます。
比重は、組成によって変動しますが、おおよそ 5.6〜5.8 程度です。これは、トリウムという重元素を含んでいることによるものです。
劈開は 不明瞭 で、断口は 貝殻状 から 不規則状 を示します。これは、結晶構造における結合の強さが均一でないことを示唆しています。
熱的性質と放射能
ハットン石は、加熱されると変質します。高温で加熱されると、結晶構造が変化し、最終的には非晶質(アモルファス)になることもあります。また、トリウムの放射壊変に伴い、一定量の熱を発生させます。この熱は、鉱物周囲の温度に影響を与える可能性があります。
ハットン石は、トリウム(₉₀Th)の同位体を含んでいるため、放射性 を帯びています。トリウムは、ウラン系列やアクチニウム系列の放射性崩壊系列に属する元素であり、その崩壊生成物もまた放射性を持っています。ハットン石の放射能の強さは、含まれるトリウムの量とその同位体組成に依存します。
ハットン石と関連する鉱物・研究
ジルコンとの関係
ハットン石とジルコンは、化学組成(SiO₄)と結晶構造(四面体構造)に類似性が見られるものの、カチオン(Th vs Zr)と結晶系(単斜晶系 vs 四方晶系)が異なります。この類似性と違いは、鉱物形成における元素の置換や、結晶構造の構築原理を理解する上で興味深い対象となります。
ジルコンは、地球年代学において年代測定に広く用いられていますが、ハットン石もトリウムの存在により、一定の条件下では年代測定の対象となり得ます。特に、ジルコンが風化・変質してハットン石が生成される場合、その形成過程や年代の推定は、地質学的なイベントを解明する上で重要です。
トリウム資源としての可能性
ハットン石は、トリウムを主要元素として含んでいるため、将来的な トリウム資源 としての可能性が議論されることがあります。トリウムは、原子力発電の燃料として注目されており、その埋蔵量はウランよりも豊富であると考えられています。しかし、ハットン石は通常、希産鉱物であり、経済的に採掘可能な規模で産出することは稀です。そのため、現時点では実用的なトリウム資源としての重要性は限定的です。
地球化学的・宇宙化学的研究
ハットン石は、そのユニークな元素組成と放射性同位体組成から、地球化学的および宇宙化学的な研究においても注目されています。例えば、地球内部でのトリウムの挙動や、マグマの起源、地殻変動の歴史などを解明するためのトレーサーとして利用される可能性があります。
また、隕石や月の岩石など、地球外物質中のハットン石の存在は、太陽系形成初期の元素の分布や、天体形成過程に関する貴重な情報を提供してくれるかもしれません。
まとめ
ハットン石は、トリウムを主成分とする単斜晶系のケイ酸塩鉱物であり、その発見以来、鉱物学、地質学、そして核科学の分野で関心を集めてきました。そのユニークな化学組成、結晶構造、そして放射能は、地球の地質史、元素の挙動、そして将来のエネルギー資源としての可能性など、多岐にわたる研究テーマを提供しています。今後も、ハットン石に関する研究は、地球科学および関連分野の進展に貢献していくことでしょう。
