苦土橄欖石(フォーエスター石)の詳細・その他
鉱物としての苦土橄欖石
概要
苦土橄欖石(くどかんらんせき、英語: Forsterite)は、橄欖石グループに属する鉱物で、化学組成は Mg2SiO4 です。これは、マグネシウム(Mg)とケイ素(Si)および酸素(O)からなるケイ酸塩鉱物であり、橄欖石グループの端成分の一つです。
橄欖石グループは、一般的に (Mg, Fe)2SiO4 という化学組成を持ち、マグネシウム(Mg)と鉄(Fe)が固溶体(互いに混ざり合って一つの鉱物相を形成すること)を形成しています。苦土橄欖石は、この固溶体系列においてマグネシウムが鉄よりも圧倒的に多い場合、すなわち鉄の含有量が非常に少ない状態を指します。対照的に、鉄が優位な端成分は鉄橄欖石(Fayalite, Fe2SiO4)と呼ばれます。
苦土橄欖石は、その名の通り、マグネシウム(苦土:くど)を多く含む橄欖石であることから命名されました。宝石としては、緑色を帯びるものもあり、その美しさから価値が見出されることがあります。
化学組成と結晶構造
苦土橄欖石の化学組成は、理論的には Mg2SiO4 ですが、実際には微量の鉄(Fe)、マンガン(Mn)、カルシウム(Ca)などが置換していることがあります。しかし、苦土橄欖石として分類されるためには、鉄の含有量が非常に少なく、マグネシウムが支配的である必要があります。
結晶構造は、斜方晶系に属し、オリビン型構造をとります。この構造は、ケイ素原子(Si)が4つの酸素原子(O)と四面体を形成し、これらの四面体がマグネシウム原子(Mg)を介して三次元的に連結したものです。マグネシウム原子は、酸素原子に囲まれた八面体サイトを占めます。
物理的性質
- 色:純粋な苦土橄欖石は無色透明ですが、不純物(特に鉄イオン)の混入により、淡緑色、黄緑色、褐色などを呈することがあります。宝石質のものは、澄んだ緑色であることが多いです。
- 光沢:ガラス光沢(vitreous luster)を示します。
- 透明度:透明(transparent)から半透明(translucent)です。
- 条痕:白色(white)。
- 硬度:モース硬度で6.5~7。比較的硬い鉱物です。
- 比重:約3.2~3.3。
- 劈開:{110}に完全(perfect)な劈開を持ちます。これは、特定の結晶面で容易に割れる性質です。
- 断口:貝殻状断口(conchoidal fracture)を示すこともあります。
- 多色性:通常、ほとんど認められませんが、微量の鉄イオンの存在により、淡い緑色や黄色などの弱い多色性を示すことがあります。
- 屈折率:単屈折性(uniaxial negative)で、屈折率は約1.63~1.69の範囲です。
生成環境と産地
地質学的背景
苦土橄欖石は、主に火成岩、特にかんらん岩や玄武岩などの塩基性および超塩基性の火成岩に多く含まれます。これらの岩石は、地球のマントルに由来する物質が地殻に上昇・冷却して形成されるため、苦土橄欖石はマントル物質の構成成分として重要視されています。
また、変成岩、特に接触変成作用や広域変成作用によって、石灰岩などが変成して形成されるドロマイト(苦灰石)や蛇紋岩などにも生成します。高温・高圧下で、マグネシウムを豊富に含む母岩が反応することで苦土橄欖石が生成します。
宇宙においては、隕石、特に石質隕石の主要な構成鉱物としても知られています。地球外での存在は、橄欖石が普遍的な鉱物であることを示唆しています。
主な産地
苦土橄欖石は、世界中の多くの地域で産出しますが、特に価値の高い宝石質のものや、学術的に重要な標本が産出する地域としては、以下のような場所が挙げられます。
- イタリア:エトナ山周辺の玄武岩など。
- アメリカ合衆国:アリゾナ州、カリフォルニア州(ペリドットとして知られるものの一部)、ハワイ諸島(火山岩中)など。
- ミャンマー:宝石質のものが産出するとされています。
- パキスタン:宝石質のものが産出するとされています。
- フィンランド:一部の変成岩中に産出します。
- ロシア:シベリア地方のペリドット産地などで知られます。
これらの産地で産出する苦土橄欖石は、その色合いや透明度、内包物の有無などによって、宝石としての価値が異なります。
苦土橄欖石の利用と価値
宝石としての利用
苦土橄欖石は、その美しい緑色から宝石として利用されます。一般的に、宝石としての橄欖石は「ペリドット」という名称で知られていますが、ペリドットの主成分は苦土橄欖石であり、鉄橄欖石との固溶体である場合がほとんどです。純粋な苦土橄欖石、あるいは鉄の含有量が極めて少ないものは、より透明度が高く、鮮やかな緑色を呈することがあり、価値が高くなります。
宝石として使用される場合、カットや研磨が施され、指輪、ネックレス、イヤリングなどの宝飾品に加工されます。苦土橄欖石は、その硬度も比較的高いため、日常使いのジュエリーにも適しています。ただし、劈開があるため、強い衝撃には注意が必要です。
苦土橄欖石は、その鮮やかな緑色から「イブニングエメラルド」と呼ばれることもありますが、これはエメラルドとは異なる鉱物です。
工業的・科学的利用
苦土橄欖石は、その化学的・物理的安定性から、耐火物の原料としても利用されることがあります。高温に耐える性質を持つため、製鉄業やガラス製造業などで使用される窯のライニング材などに加工されることがあります。
また、地球科学分野においては、マントル物質の代表的な鉱物として、地球内部の構造やダイナミクスを理解するための研究対象となっています。隕石に含まれる苦土橄欖石は、太陽系初期の物質や惑星形成過程の研究にも寄与しています。
価値
苦土橄欖石の価値は、主に以下の要素によって決まります。
- 色:一般的に、鮮やかで均一な緑色が高く評価されます。黄色みが強い、あるいは黒ずんだ緑色は価値が低くなります。
- 透明度:透明度が高いほど、光の反射や屈折が美しく、価値が高まります。内包物(インクルージョン)が少ないことも重要です。
- サイズ:大きいほど希少性が増し、価値も高くなります。
- カット:石の輝きや色を最大限に引き出すカットが施されていることが望ましいです。
- 産地:宝石質のものが産出する有名な産地のものは、ブランド価値としても高まることがあります。
純粋な苦土橄欖石は、鉄橄欖石との固溶体である一般的なペリドットよりも希少性が高い場合があり、その品質によっては高価で取引されることがあります。
その他・関連情報
橄欖石グループとの関係
苦土橄欖石(Forsterite)は、橄欖石グループ(Olivine group)という鉱物ファミリーの一員です。このグループは、一般式 (Mg, Fe)2SiO4 で表され、マグネシウム(Mg)と鉄(Fe)が固溶体を形成します。この固溶体系列は、
- 苦土橄欖石 (Forsterite, Fo):Mg2SiO4
- 鉄橄欖石 (Fayalite, Fa):Fe2SiO4
という両端成分からなります。苦土橄欖石は、MgがFeよりも著しく多い(通常、Fo > 90%)場合にこう呼ばれます。一方、FeがMgよりも多い場合は鉄橄欖石に近づきます。この固溶体系列におけるMgとFeの比率によって、橄欖石の性質(色、比重、屈折率など)は変化します。
さらに、橄欖石グループには、苦土橄欖石や鉄橄欖石以外にも、マンガン(Mn)やカルシウム(Ca)などが置換した希少なメンバーも存在しますが、最も一般的で重要なのは苦土橄欖石と鉄橄欖石の固溶体です。
ペリドットとの違い
前述のように、一般的に宝石として知られる「ペリドット」は、苦土橄欖石と鉄橄欖石の固溶体です。ペリドットの化学組成は (Mg, Fe)2SiO4 で、MgとFeの比率によってその色合いや性質が変化します。一般的に、ペリドットは淡い緑色からオリーブグリーン、濃い緑色まで様々です。
苦土橄欖石は、このペリドットの固溶体系列において、マグネシウムが支配的な端成分です。純粋な苦土橄欖石は、鉄の含有量が非常に少ないため、より澄んだ、あるいは黄色味を帯びた緑色になる傾向があります。鉄橄欖石の割合が増えるほど、色は濃く、暗くなります。
そのため、厳密には、宝石として扱われる「ペリドット」の多くは苦土橄欖石と鉄橄欖石の混合物ですが、「苦土橄欖石」という名称は、その化学組成に特化した鉱物学的用語として使用されます。宝石学においては、Mg/(Mg+Fe)の比率によって、苦土橄欖石寄りか鉄橄欖石寄りかを区別することがあります。
学術的な重要性
苦土橄欖石は、地球科学、特に地球物理学や地球化学の分野で非常に重要な鉱物です。地球のマントルは、橄欖石を主成分とする岩石(かんらん岩)で構成されていると考えられており、苦土橄欖石はそのマントル物質を代表する鉱物の一つです。
地球内部の地震波伝播速度や、マントル対流のメカニズム、プレートテクトニクスといった地球のダイナミックな活動を理解する上で、橄欖石の物性(特に高温・高圧下での性質)の研究は不可欠です。苦土橄欖石は、マントル下部で安定に存在しうる鉱物であるため、地球内部の物質循環や地殻変動のモデル構築に貢献しています。
また、惑星科学においても、地球型惑星や隕石の起源と進化を研究する上で、橄欖石は重要な手がかりとなります。隕石中に含まれる苦土橄欖石の同位体組成などを分析することで、太陽系初期の化学進化や、惑星の形成過程に関する情報が得られます。
まとめ
苦土橄欖石(フォーエスター石)は、化学組成 Mg2SiO4 を持つ橄欖石グループの端成分鉱物です。その名の通り、マグネシウムを豊富に含み、鉄の含有量は極めて少ないのが特徴です。斜方晶系に属し、ガラス光沢、モース硬度6.5~7といった物理的性質を持ちます。純粋なものは無色透明ですが、不純物によって緑色や黄色を呈することがあります。
地質学的には、マントル物質の主要構成鉱物として、かんらん岩や玄武岩などの火成岩、あるいは変成岩中に生成します。宇宙では隕石にも含まれており、普遍的な鉱物と言えます。主な産地は世界各地に存在します。
宝石としては、鉄橄欖石との固溶体であるペリドットが有名ですが、苦土橄欖石自体も、その澄んだ緑色から宝石として利用されます。透明度、色、サイズなどが価値を決定する重要な要素です。工業的には、耐火物の原料としても利用されることがあります。
橄欖石グループのMgを主体とする鉱物として、地球科学分野ではマントル構造や惑星形成過程の研究に不可欠な存在です。苦土橄欖石は、地球内部の理解や、太陽系史の解明に貢献する、地質学的にも宝石学的にも重要な鉱物と言えます。
