天然石

亜砒藍鉄鉱

亜砒藍鉄鉱(あひらんてっこう)の詳細・その他

概要

亜砒藍鉄鉱(Arsenopyrite)は、化学式FeAsSで表される鉱物です。鉄(Fe)、ヒ素(As)、硫黄(S)から構成される硫砒鉄鉱(りゅうてつこう)鉱物の一種であり、等軸晶系に属します。その名称は、ヒ素(Arsenic)と鉄(Iron)、そして硫黄(Sulfide)に由来しています。

亜砒藍鉄鉱は、鉱物学的には単斜晶系で結晶化する「斜方硫砒鉄鉱(しゃほう・りゅうてつこう)」の同質異像(化学組成は同じだが結晶構造が異なる鉱物)ですが、一般的に「亜砒藍鉄鉱」と呼ばれる場合は、この斜方硫砒鉄鉱を指すことがほとんどです。名称に「亜」が付いているのは、より一般的な「硫砒鉄鉱」という言葉に由来し、ヒ素の含有量や組成比の違いなどを反映しているとも考えられますが、学術的には「斜方硫砒鉄鉱」という名称がより正確です。しかし、慣習的に「亜砒藍鉄鉱」という名称が広く使われています。

物理的・化学的性質

  • 化学組成:FeAsS
  • 結晶系:単斜晶系
  • 結晶形:短柱状、針状、板状、まれに双晶を形成
  • :銀白色から鋼灰色
  • 光沢:金属光沢
  • 条痕:黒色
  • 硬度(モース硬度):5.5~6
  • 比重:7.5~8.2(組成によって変動)
  • 劈開:{110}に完全
  • 断口:貝殻状~不平坦
  • 条痕:黒色
  • 透明度:不透明

亜砒藍鉄鉱は、その高い比重と金属光沢が特徴的な鉱物です。硬度は中程度であり、比較的脆い性質を持っています。条痕が黒色であることも、他の金属鉱物との識別において重要な手がかりとなります。化学的には、加熱すると昇華し、ヒ素特有のニンニク臭を発することがあります。また、酸には難溶ですが、硝酸には溶解します。

産出状況と産地

亜砒藍鉄鉱は、主に中~高温熱水鉱床やペグマタイト、変成岩中に産出します。特に、花崗岩質マグマの活動に伴って形成される熱水鉱脈中に多く見られます。しばしば、黄鉄鉱(Pyrite)や磁硫鉄鉱(Pyrrhotite)、方鉛鉱(Galena)、閃亜鉛鉱(Sphalerite)などの他の金属硫化物鉱物と共生しています。

世界各地で産出が報告されていますが、特に重要な産地としては、以下の地域が挙げられます。

  • カナダ:オンタリオ州、ケベック州
  • アメリカ合衆国:コロラド州、アイダホ州
  • メキシコ
  • チリ
  • スウェーデン
  • ノルウェー
  • ドイツ
  • ルーマニア
  • 日本:北海道、長野県、岡山県など、数多くの鉱山跡地から産出

日本国内でも、かつては銀や銅、鉛、亜鉛などの金属鉱石の副産物として採掘されていました。特に、北海道の豊羽鉱山や長野県の生野鉱山などで知られています。

鉱物としての特徴と識別

亜砒藍鉄鉱は、その外観から黄鉄鉱(Pyrite)と間違われることがあります。しかし、亜砒藍鉄鉱は一般的に黄鉄鉱よりも硬度が高く、結晶形も異なります。黄鉄鉱は等軸晶系であり、立方体や五角十二面体といった結晶形を形成することが多いのに対し、亜砒藍鉄鉱は単斜晶系であり、短柱状や針状といった特徴的な結晶形を示します。また、条痕が黒色であること、そして加熱時のニンニク臭も、黄鉄鉱との識別点となります。

さらに、亜砒藍鉄鉱はヒ素を含むため、取り扱いには注意が必要です。粉塵を吸い込んだり、皮膚に長時間触れたりすると健康被害を引き起こす可能性があります。そのため、採集や研究を行う際には、適切な保護具の使用が推奨されます。

利用と用途

亜砒藍鉄鉱は、主にヒ素の原料として重要視されてきました。ヒ素は、かつては医薬品(三酸化ヒ素など)や農薬(殺虫剤、除草剤)として利用されていましたが、その毒性から現在では使用が制限されています。しかし、一部の合金(鉛の硬度を高めるためなど)や、ガラスの着色剤、半導体材料(化合物半導体など)としての用途も存在します。

また、亜砒藍鉄鉱は、金(Au)や銀(Ag)などの貴金属鉱石にしばしば共生しています。これらの鉱石を製錬する際に、亜砒藍鉄鉱が副産物として産出することがあり、その際に金や銀を回収するプロセスで、ヒ素の除去が課題となることもあります。逆に、亜砒藍鉄鉱自体を主目的として採掘されることは稀であり、多くは他の金属鉱石の副産物として扱われます。

鉱床学的意義

亜砒藍鉄鉱の産状は、その鉱床が形成された環境を知る上で重要な指標となります。中~高温の熱水活動によって形成された鉱床において、亜砒藍鉄鉱が多量に産出する場合、それはその鉱床がヒ素を供給する源岩や、ヒ素を運搬する流体に関与していることを示唆します。また、他の金属硫化物鉱物との共生関係を調べることで、鉱床の生成温度や圧力、流体の組成などを推定する手がかりとなります。

例えば、金鉱床との関連も指摘されており、亜砒藍鉄鉱が金と共生している場合、それは金が形成される環境においてヒ素もまた共存していたことを意味します。このような関係性を理解することは、鉱床探査や資源評価において非常に重要です。

まとめ

亜砒藍鉄鉱は、化学式FeAsSで表される、銀白色から鋼灰色の金属光沢を持つ鉱物です。単斜晶系に属し、短柱状や針状の結晶形を呈します。中~高温熱水鉱床やペグマタイト、変成岩中に産出し、黄鉄鉱と似ていますが、結晶形、硬度、条痕などで識別できます。主にヒ素の原料として利用されてきましたが、毒性から用途は限定的です。金や銀などの貴金属鉱石と共生することも多く、鉱床学的にも重要な意義を持っています。取り扱いには注意が必要な鉱物ですが、その特徴的な性質から鉱物コレクターにも人気があります。