天然石

ストロンチアン石

ストロンチアン石

概要

ストロンチアン石(Strontianite)は、炭酸ストロンチウム(SrCO3)を主成分とする鉱物です。ストロンチウム(Sr)という元素がその名に由来しており、この鉱物の発見がストロンチウムという元素の発見につながりました。

物理的・化学的性質

化学組成

化学式はSrCO3です。理論的には、ストロンチウム酸化物(SrO)が70.2%、二酸化炭素(CO2)が29.8%で構成されています。しかし、実際には、バリウム(Ba)やカルシウム(Ca)が固溶体として部分的に置換されることがあり、その場合はバリウムストロンチアン石(baryostrontianite)や炭酸バリウム(BaCO3)の成分が混入します。

結晶系と結晶構造

ストロンチアン石は斜方晶系に属します。結晶形は、柱状、針状、板状など様々ですが、しばしば双晶を形成します。結晶構造は、炭酸イオン(CO32-)とストロンチウムイオン(Sr2+)が配列したもので、比較的密な構造を持っています。

無色透明なものから、白色、淡黄色、淡褐色、帯緑色、淡青色など、多様な色合いを示します。この色の違いは、微量の不純物(金属イオンなど)の存在に起因することが多いです。

光沢

ガラス光沢を示しますが、表面が風化している場合は亜金属光沢や脂肪光沢を呈することもあります。

硬度

モース硬度は3.5~4程度です。これは、ナイフで傷つけることができる程度の硬さであり、比較的脆い鉱物と言えます。

比重

比重は3.6~3.8程度です。ストロンチウムイオンの原子量が大きいため、同程度の大きさの炭酸カルシウム(方解石)などに比べて重くなります。

断口

断口は貝殻状を示すこともありますが、不規則な場合が多いです。

劈開

完全な劈開を2方向に持ちます。これは、結晶構造における特定の結合面が弱いため、その面に沿って割れやすい性質です。

条痕

条痕は白色です。

溶解性

一般的に炭酸塩鉱物は酸に溶けにくいですが、ストロンチアン石は希塩酸に激しく発泡して溶けます。これは、炭酸イオンが塩酸と反応して二酸化炭素を発生させるためです。

蛍光

一部のストロンチアン石は、紫外線(長波・短波)を照射すると、赤色やオレンジ色に蛍光することが知られています。この性質は、鉱物標本としての魅力を高める要因の一つです。

産出地と生成環境

産出地

ストロンチアン石は、世界中の様々な場所で産出します。特に有名な産地としては、スコットランドのストロンチアン(鉱物名の由来となった地名)、イギリスのチェシャー州、アメリカのオハイオ州、ドイツ、メキシコ、モロッコなどが挙げられます。

生成環境

主に熱水鉱床や堆積岩中に生成します。

  • 熱水鉱床: 地下深くで高温高圧の熱水溶液が岩石の割れ目などを通って上昇し、そこでストロンチウムなどの成分が沈殿して生成します。しばしば、石英、方解石、蛍石、重晶石など他の鉱物と共存します。
  • 堆積岩: 海底や湖底などで、ストロンチウムを多く含む水が沈殿し、炭酸塩として堆積して生成することもあります。特に、石灰岩やドロマイト(苦灰石)などの炭酸塩岩中に産出することがあります。

また、二次的に、既存の岩石の風化や変質によって生成することもあります。

発見と名称の由来

ストロンチアン石は、1790年頃にスコットランドのストロンチアンという村の近くで発見されました。この鉱物に含まれる未知の金属元素は、後にストロンチウムと名付けられました。発見者であるキャレダー・コリン・マクドナルド氏とウィリアム・クルックシャンク氏が、この鉱物と地名を元に命名したとされています。鉱物学史上、新しい元素の発見につながった重要な鉱物の一つです。

用途

ストロンチアン石は、ストロンチウムの主要な鉱石として利用されます。ストロンチウムは、様々な工業分野で活用されています。

  • 花火・信号炎管: ストロンチウム塩は、燃焼時に鮮やかな赤色を呈するため、花火や信号炎管の着色剤として広く用いられています。
  • ブラウン管(CRT)ガラス: かつてテレビやコンピューターのモニターに使われていたブラウン管のガラスには、X線を吸収する目的でストロンチウム化合物が添加されていました。
  • 特殊ガラス: 高屈折率の光学レンズや、放射線遮蔽ガラスなどの特殊なガラスの製造にも利用されます。
  • 合金: アルミニウム合金などに添加することで、強度や耐熱性を向上させる効果があります。
  • 磁性材料: フェライト磁石の製造にストロンチウムが利用されることがあります。

工業的な抽出

ストロンチアン石を採掘した後、鉱石からストロンチウム化合物を抽出・精製するプロセスを経て、様々な用途に供給されます。代表的なストロンチウム化合物としては、炭酸ストロンチウム(SrCO3)や硝酸ストロンチウム(Sr(NO3)2)などがあります。

鑑別と注意点

鑑別

ストロンチアン石は、その外観や性質から、他の鉱物と区別する必要があります。

  • 方解石(Calcite): 方解石も炭酸塩鉱物で、希塩酸に発泡しますが、硬度(モース硬度3)や結晶形(菱面体晶系)が異なります。ストロンチアン石の方が硬く、針状や柱状の結晶形を示すことが多いです。
  • 重晶石(Barite): 重晶石は硫酸バリウム(BaSO4)で、ストロンチアン石と似たような柱状結晶を示すことがありますが、硬度(モース硬度3~3.5)は同程度でありながら、比重がかなり重い(4.48~4.62)ため、手で持った時の重さで区別できます。また、重晶石は希塩酸にはほとんど溶けません。
  • セレスタイト(Celestite): セレスタイトは硫酸ストロンチウム(SrSO4)で、ストロンチアン石の主成分であるストロンチウムを共有しています。外観や結晶形が似ている場合があり、鑑別が難しいことがあります。しかし、セレスタイトは硫酸塩鉱物であり、希塩酸に溶けずに発泡しません。

注意点

ストロンチアン石自体は毒性は低いとされていますが、ストロンチウム化合物は、用途によっては注意が必要です。また、鉱物採集においては、採取場所の規則や環境への配慮が重要となります。

まとめ

ストロンチアン石は、炭酸ストロンチウムを主成分とする鉱物であり、その名称は元素ストロンチウムの発見に由来します。斜方晶系に属し、多様な色と結晶形を示し、希塩酸に発泡して溶ける性質を持ちます。熱水鉱床や堆積岩中に生成し、花火、特殊ガラス、合金など、現代社会の様々な分野で利用されるストロンチウムの重要な鉱石です。その発見は、鉱物学だけでなく、元素化学の進展にも大きく貢献しました。