ブンセン石(Bunsengite)
概要
ブンセン石は、化学組成がNa2Mn3+(PO4)2で表されるリン酸塩鉱物です。マンガン(Mn)を主成分とするリン酸塩鉱物としては比較的珍しい鉱物であり、その名称は、ドイツの化学者ロベルト・ブンセン(Robert Bunsen)にちなんで名付けられました。
発見と命名
ブンセン石は、1967年にノルウェーのヘルテルバッカ(Hertelback)鉱山で発見されました。発見当初は、未知の鉱物として分析され、その後、その組成が解明され、ロベルト・ブンセン博士への敬意を込めて「ブンセン石」と命名されました。
産状と共存鉱物
ブンセン石は、主にペグマタイト鉱床や変成岩中に産出します。ペグマタイト鉱床では、リチウム鉱物や希元素鉱物と共に産出することが多く、このことから、リチウムや希元素の賦存する環境での生成が示唆されます。
代表的な産地としては、ノルウェーのヘルテルバッカ鉱山をはじめ、スウェーデン、フィンランド、カナダ、アメリカ合衆国など、世界各地のペグマタイト鉱床やマンガン鉱床で報告されています。また、日本国内では、長野県などのマンガン鉱床で発見された例もあります。
共存鉱物としては、アルバイト、ミスチキン石、トルマリン、ガーネット、リチオフィライト、ヘンゼライト、ストロンチオムリチオフィライト、リチア雲母などが挙げられます。これらの共存鉱物から、ブンセン石の生成環境における詳細な情報が得られます。
物理的・化学的性質
ブンセン石は、一般的に淡いピンク色から赤紫色、あるいは無色透明な結晶として産出します。結晶形は単斜晶系に属し、柱状または葉片状の結晶が観察されます。劈開は完全で、特定の方向に沿って容易に割れます。光沢はガラス光沢を示し、条痕は白色です。
モース硬度は5〜5.5程度であり、比較的脆い鉱物です。比重は3.0〜3.1程度で、マンガンを多く含む鉱物としては標準的な値を示します。
化学的には、リン酸塩鉱物であり、ナトリウム、マンガン(三価)、リン酸イオンから構成されています。マンガンは三価のマンガン(Mn3+)として存在し、これがブンセン石の色彩に影響を与えていると考えられます。
化学組成
ブンセン石の化学組成は、Na2Mn3+(PO4)2で表されます。この組成は、ナトリウム(Na)、三価のマンガン(Mn3+)、そしてリン酸イオン(PO43-)が特定の比率で結合していることを示しています。微量元素として、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)などが含まれることもあります。
結晶構造
ブンセン石は単斜晶系に属し、その結晶構造は、リン酸テトラヘドロン(PO4)と、ナトリウムイオン(Na+)および三価のマンガンイオン(Mn3+)を配置する金属カチオンサイトから構成されています。この構造におけるマンガンイオンの配位環境などが、その光学特性や色調に影響を与えます。
鉱物学的意義と研究
ブンセン石は、マンガンを主成分とするリン酸塩鉱物という点で、鉱物学的に興味深い存在です。特に、三価のマンガンを含むリン酸塩鉱物は希少であり、その生成条件や結晶構造の研究は、元素の地球化学的循環や鉱物生成過程の理解に貢献します。
また、ペグマタイト鉱床におけるブンセン石の産状は、リチウムや希元素の偏析メカニズム、およびそれらの元素がどのようにして特定の鉱物に取り込まれるのかを解明する手がかりとなります。これらの研究は、資源探査や鉱物資源の有効活用といった観点からも重要です。
鑑賞・コレクションとしての価値
ブンセン石は、その美しいピンク色や赤紫色の結晶から、鉱物コレクターの間でも人気があります。特に、鮮やかな色合いを持つ結晶や、他の鉱物と共生して産出する標本は、高い価値を持ちます。ペグマタイト鉱床から産出する希少な鉱物であることも、そのコレクションとしての魅力を高めています。
産出標本の例
ブンセン石の標本は、その産地によって特徴が異なります。例えば、ノルウェーのヘルテルバッカ鉱山産の標本は、しばしば透明感のある結晶で、淡いピンク色を呈します。一方、他の産地の標本では、より濃い赤紫色や、不透明な結晶として産出することもあります。共存する鉱物との組み合わせも、標本の魅力を左右する要素です。
まとめ
ブンセン石は、鮮やかな色合いと希少性から、鉱物愛好家やコレクターにとって魅力的な鉱物です。その産状や共存鉱物に関する研究は、地球化学や鉱床学の分野に貢献しており、今後もさらなる研究が期待されます。