天然石

クロム苦土鉱

クロム苦土鉱(クロムくどこう)の詳細・その他

鉱物の概要

クロム苦土鉱(クロムくどこう)は、化学式 (Mg,Fe)Cr2O4 で表される鉱物であり、スピネルグループに属します。苦土(マグネシウム)と鉄、そしてクロムを主成分とする酸化鉱物です。自然界においては、特に蛇紋岩やかんらん岩などの超苦鉄質岩の変成作用や、熱水変質作用を受ける際に生成することが多いです。また、隕石中にも見られることがあります。その名前が示す通り、苦土(マグネシウム)とクロムの結合が特徴であり、鉄もマグネシウムやクロムと固溶体を形成するため、組成は比較的幅広く変化します。この固溶体の形成は、クロム鉄鉱との間で顕著です。

鉱物の特徴

物理的性質

  • 結晶系:等軸晶系
  • 結晶構造:スピネル構造。一般的に、酸素原子が立方最密充填構造を形成し、その四面体サイトにマグネシウムや鉄、八面体サイトにクロムが配置されます。
  • 色:一般的に黒色から黒褐色です。クロム含有量が多いほど、色が濃くなる傾向があります。
  • 光沢:金属光沢から半金属光沢を示します。
  • 条痕:黒色から黒褐色。
  • 硬度(モース硬度):7~8。非常に硬い鉱物です。
  • 比重:4.5~5.0。比較的重い鉱物です。
  • 劈開:不明瞭、またはなし。
  • 断口:貝殻状断口を示すこともありますが、不規則な場合が多いです。
  • 集合形態:粒状、粒状集合体、腎臓状、板状など。

化学的性質

クロム苦土鉱の化学組成は、(Mg,Fe)Cr2O4 と表されますが、これは厳密にはMgCr2O4(マグネシオクロマイト)と FeCr2O4 (ユーヘドライト)の間の固溶体です。したがって、マグネシウムと鉄の比率によって、その性質が多少変化します。クロム(Cr)は、この鉱物の最も特徴的な元素であり、その存在がクロム苦土鉱としてのアイデンティティを確立しています。マグネシウム(Mg)や鉄(Fe)も、クロムと共にスピネル構造を形成する上で重要な役割を果たします。

産状と分布

岩石学的産状

クロム苦土鉱は、主に超苦鉄質岩(かんらん岩、ダンžite、エクロジャイトなど)の変成作用、特に蛇紋岩化作用の過程で生成されることが多いです。高温・高圧下での変質や、熱水変質作用によって、元の岩石中のカンラン石などのマグネシウムや鉄分が、クロムと結合してクロム苦土鉱を形成します。また、火成岩の結晶分化作用の初期段階で副成分鉱物として生成することもあります。さらに、隕石、特に石質隕石の中にも、カンラン石や輝石と共存して見られることがあります。

地理的分布

クロム苦土鉱は、世界中の蛇紋岩や超苦鉄質岩が分布する地域で産出します。代表的な産地としては、

  • 南アフリカ(ブッシュフェルト層状岩体など)
  • ジンバブエ
  • トルコ
  • アメリカ(カリフォルニア州、オレゴン州など)
  • カナダ
  • ロシア
  • インド

などが挙げられます。これらの地域では、クロム苦土鉱がクロム鉱石として、あるいはクロムの副産物として採掘されることがあります。

識別と鑑別

肉眼での識別

クロム苦土鉱は、その黒色から黒褐色の色彩、金属光沢から半金属光沢、そして硬度の高さから、他の黒色鉱物、特に磁鉄鉱やヘマタイト、黒雲母などと区別されることがあります。しかし、肉眼だけではクロム鉄鉱や他のスピネルグループの鉱物との鑑別は困難な場合が多いです。特に、クロム鉄鉱は組成が類似しており、固溶体を形成するため、見た目が非常に似ています。

鉱物学的鑑別

顕微鏡下での観察や、偏光顕微鏡を用いた光学特性の確認が鑑別の重要な手段となります。また、X線回折(XRD)による結晶構造の解析や、電子線マイクロアナライザー(EPMA)などの化学分析によって、その正確な組成を決定することが、確実な鑑別には不可欠です。特に、クロム(Cr)と鉄(Fe)の含有率、そしてマグネシウム(Mg)との比率を正確に把握することが重要となります。

用途と経済的重要性

クロム苦土鉱は、それ自体がクロムの重要な鉱床を形成することは稀ですが、クロム鉄鉱((Fe,Mg)Cr2O4)と共に、クロムの主要な鉱石として利用されることがあります。クロムは、ステンレス鋼の製造に不可欠な元素であり、耐食性や耐熱性を向上させるために広く使用されています。また、めっき、顔料、触媒、皮革のなめし剤など、多岐にわたる産業分野で利用されています。クロム苦土鉱の産出は、これらのクロム資源の供給源として、間接的に経済的に重要な意味を持っています。特に、クロム鉄鉱の副産物として、あるいはクロムを多く含む地殻の岩石から分離される場合、その価値は高まります。

その他

関連鉱物

クロム苦土鉱は、スピネルグループに属しており、そのグループにはスピネル(MgAl2O4)、マグネシオクロマイト(MgCr2O4)、ユーヘドライト(FeCr2O4)、ガナイト(ZnFe2O4)、ヘルシナイト(FeAl2O4)など、多くの鉱物が含まれます。クロム苦土鉱は、特にクロム鉄鉱((Fe,Mg)Cr2O4)と密接に関連しており、両者は固溶体を形成し、実質的に区別がつかない場合もあります。また、蛇紋岩やかんらん岩の変成鉱物であるリザーダイト(Mg3Si2O5(OH)4)やフォーリエライト((Mg,Fe)2SiO4)などとも共存することが多いです。

研究における意義

クロム苦土鉱は、地球化学や岩石学の研究において、熱水変質作用の指標として、あるいは超苦鉄質岩の起源や変成履歴を解明するための手がかりとして利用されることがあります。また、同位体分析などを通じて、地球や惑星の形成史に関する情報を提供することもあります。隕石中のクロム苦土鉱の研究は、太陽系の初期の物質や形成過程を理解する上で重要な役割を果たします。

まとめ

クロム苦土鉱は、黒色から黒褐色で金属光沢を持つ、スピネルグループに属する硬い鉱物です。その組成は、マグネシウム、鉄、クロムの固溶体であり、特にクロムの存在が特徴的です。蛇紋岩などの超苦鉄質岩の変成作用や熱水変質作用で生成され、世界各地の関連岩石中に産出します。肉眼での識別は困難な場合も多く、顕微鏡観察や化学分析が鑑別に用いられます。クロム苦土鉱は、クロム鉄鉱と共にクロム資源として経済的にも重要であり、ステンレス鋼などの製造に不可欠なクロムの供給源として、間接的に貢献しています。また、地球科学分野における変成作用や岩石の起源の研究、さらには隕石研究においても重要な役割を担う鉱物と言えます。